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超低予算作品ながら、豪華キャストの作品。主演の中原丈雄さんの飄々とした無責任さが際立つなか、そんな父親を毛嫌いしていた息子が、父親の愛に気がつき涙するというヒューマンドラマ。
どんなダメ親父でも、子供にとってはかけがえのない父親なんですね。絶対どこかでいい思いでも眠っているものです。確かに本作で登場する父親の敦はひどい人間で、祖母の俊江の年金を握りしめて失踪したり、俊江が死んでも葬式にも顔を出さず、働いていた焼肉店の売り上げと一緒にトンズラしてしまうというどうにもならない人間です。だから、15年前に捨てられた息子の光司は、自分の結婚式がなければ、「父」の存在すら忘れていた始末でした。光司にとって、敦は人生の反面教師のようなもので、ああはなりたくないという一心で、必死に勉強して「弁護士」を志し司法試験に合格したのでした。まさにトンビがタカを生むという親子だったのです。
そんな光司でも、妻が妊娠して自らも父親になることが分かると、期待ばかりでなく不安も強く感じてしまうのでした。それだけトラウマがあったということです。そんなある日、沖縄の警察から敦の消息を知らせる連絡が入ります。
どこまでも広がる碧い空とエメラルドグリーンの海を背景に、光司の父親像を探す旅が始まったのでした。それは、父親になるための自分探しの旅でもあったのです。
敦がどうなったかは伏せておきます。ただ安っぽいお涙頂戴を忌み嫌う大城英司プロデューサーと矢城潤一監督は、とうとうニアミスだけで親子の対面シーンを描くことはありませんでした。その徹底ぶりは凄いのです。例えば、敦のアパートを発見して、敦が残した光司の幼いころの写真を見るシーンでは、ついつい観客も感情移入して涙腺が緩くなるところです。でもそうはさせじと意地を張る矢城監督は、このシーンのためだけに、なんと松重豊を投入。新聞配達員が集金に訪れる設定で、感動シーンをぶちこわすのでした。 でも忘れかけていた父親の存在に目醒めていく光司の気持ちの変化は、その思いがよく伝わってきて感動的。やはり「親孝行したい時には親はなし」という格言通り、小さいときの楽しい思い出に報いようとしても。肝心の敦が不在では、「あれもしていない」「これもしていない」という後悔ばかりがつのるばかりですね。
タイトルの『ジンベエザメ』は、そんな光司が一番記憶に残っていた敦との水族館での楽しかった思い出のシンボルだったのです。
最後まで感動させないぞと頑張った矢城監督が、最後の最後になって放つ切り札のようなこの回想シーンに、上手い演出だなと唸りました。
矢城監督は、著名監督の助監督を長く経験して、そのエッセンスを吸収している分、安定した演出力を鍛えているように見受けられました。ぜひ大作の監督も挑戦して欲しいところです。試写会が終わった飲み会では、大城プロデューサーの映画の情熱を知ることができ、有意義な時間を過ごすことができました。
『ばななとグローブ』については、タイアップしているメーカの関係でつけられた名前だそうです。