キャビン : 映画評論・批評
2013年2月26日更新
2013年3月9日よりシネクイントほかにてロードショー
過去の山小屋ホラーの恐怖と面白さを更新する大胆かつ壮大な実験作
ホラー映画ほど“どこかで見た”デジャブ感を呼ぶジャンルはない。「ノーテンキな若者たちが、休暇を楽しむため人里離れた山小屋を訪れる」。そんな導入部を見せられたら、その後の展開のバリエーションはたかがしれたものだ。呪いの封印を解かれた悪霊が甦るか、ゾンビの群れが湧き出すか、はたまた異形の殺人鬼が猛威をふるうか。もしも半魚人や地獄の魔導士に出くわしたら「今どき珍しい」という理由で儲けた気分になれるかもしれない。
ところが「またか」と呑気に構えていると、ある日突然、仰天ものの快作が出現することがある。かつてスラッシャー映画をパロディ化することでジャンル批評を試みた「スクリーム」が人気を博したが、「キャビン」の作り手は“山小屋ホラー”を俎上に載せ、より大胆かつ壮大な実験を敢行した。実験という言葉は、このネタバレ厳禁映画のキーワードだ。
興趣を殺がないように詳細は避けるが、「死霊のはらわた」に代表される過去の山小屋ホラーはすべて“想定の範囲内”だった、というのが本作の出発点である。ホラーの怪物どもをメタフィクション化した着想からして抜群に面白いのだが、もう一段ひねりを加味して“想定外の事態”が勃発する後半はさらにスリルが増幅し、怒濤のサプライズが連打される。
事前にはホラー版「CUBE」らしいとの噂を聞いていたが、筆者が思うにこれは立派なホラーの博物館だ。しかも、そのおぞましい展示物たちは生きているのだから始末が悪い。入園料に十分見合った出血サービスが用意されている。
(高橋諭治)