「父になるどころじゃねぇ」そして父になる kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
父になるどころじゃねぇ
『万引き家族』『誰も知らない』路線の、重厚な是枝社会派ムービー。流石に引き込まれましたが、鑑賞後は思ったほど残りませんでした。
福山演じる、エリートで情緒が薄い父親が、子どもの取り違え事件をきっかけに変化していく物語。
主人公である父親に焦点が当てられていますが、事件自体があまりに非日常で深刻なため、父親よりも子どもの気持ちばかり気になってしまった。
いやいや、親父の変化どころじゃないでしょ。子どもの問題がデカすぎるでしょ。6〜7歳の子どもたちの親がいきなり変わるんですよ!「少しずつ慣らしていきましょう」じゃねーよ!ケイタもリュウセイも、泣いたりしないのがまた胸に来ます。なんか、大人の事情をうっすら把握して空気を読んでいるようにも感じるのです。本当に可哀想すぎます。
尾野真千子演じるケイタの母がケイタに「2人でどっか行っちゃおっか」とこぼすセリフはとても印象に残ります。本当その通りですよ!行っちゃって!福祉を利用して上手に暮らして!いきなり子どもが変わるとかありえないから!受け入れられるわけないですよね。
こんなヘヴィでセンセーショナルなプロットで親父の変容に焦点が当てられても、正直フーンで終わってしまう。もちろん父親の変化はメタファを多用しながら丁寧に描かれているし、説得力は十分にあります。しかし、そっちよりも子どもだろ、なんて思わざるを得なかった。
父親に焦点が当たったために、相対的に子どもの心情描写が少なくなっており、それは正直いただけなかった。
それから、本作で思ったことですが、タワマンって結構やばい環境ですね。確かにゴージャスな気分で生活できそうですが、一歩間違えば陸の孤島になりますね。尾野真千子がメンタル病みかける描写がありますが、一度躓くと孤立しかねません。
一方、リリー家の環境は子どもにとってなかなか理想的です。人がわちゃわちゃおり、日常にいろんな刺激が満ちています。雑然とした環境は子どもの好奇心を育てますから。
タワマンは、無駄を排した合理的で鋭利な大人の世界であり、子どもとか老人とか病人には適さない住居環境だな、と実感しています。
良かった演者は真木よう子です。ヤンキーっぽい女性を演じさせれば天下一品ですね。もともと品のない人だとは思ってましたが、下品というほどでもないので、芯の通ったワーキングクラスウーマンはドンピシャでした。
尾野真千子もなかなかのハマり役。リリーは上手いけどなんか邪悪な雰囲気があるように感じます。