ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館 : 映画評論・批評
2012年11月20日更新
2012年12月1日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
怪奇な詩情と哀切なる情感に満ちた英国産のゴシック・ホラー
よそ者に冷ややかな眼差しを向ける村の人々、水辺にぽつんと建つ不気味な洋館、その窓辺や墓場に出没する黒衣の女幽霊……。スーザン・ヒルの名作小説「黒衣の女 ある亡霊の物語」に基づく恐怖劇は、とことん正統派のゴシック・ホラーだ。観る者をギョッとさせるショック演出は散見されるものの、過激な暴力描写は皆無で、幽玄なムード漂う映像世界にはそこはかとなく郷愁を誘う詩情が息づいている。
これは怖いというより物悲しい映画だ。若き弁護士アーサーは4年前に最愛の妻に先立たれて以来、生ける屍のような日々を送っている。そんな彼が幼いひとり息子をロンドンに残して、田舎の洋館での遺品整理の仕事に赴き、地元の子供たちの命を奪い続ける邪悪な女幽霊に出くわす。「ハリー・ポッター」卒業後、この父親役に挑んだダニエル・ラドクリフは、全編悲壮感に満ちた面持ちで洋館の怪異に立ち向かう主人公を熱演する。そこには魔法も親友の助けもない。今は亡き妻との再会を願う青年のこのうえなく皮肉な運命が、孤独と喪失の痛みとともに語られていく。
ホラーとしてはいささか古めかしい作りではあるが、イギリスの怪奇映画の老舗ハマーフィルムが「モールス」に続いて製作した作品と聞けば妙に納得させられる。とりわけ、十字架の下から甦った泥まみれの少年の幽霊が洋館の玄関をノックする……というシーンは、ぞくりと身震いするほど魅惑的だ。古典的な西洋の怪談の醍醐味を今に伝えるこの一作、ハマー社にはぜひともこうした“文化事業”の継続をお願いしたい。
(高橋諭治)