「幻想的“過ぎる”と感じてしまうサバイバル劇」ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
幻想的“過ぎる”と感じてしまうサバイバル劇
トラのリチャードを始めとした、実物と見間違うほどの精緻極まるCG。
橙色・青色・緑色・黒色・碧色と、七色に変貌する水面や空の美しさ。
それら2つが合わさった幻想的且つダイナミックな映像(跳躍するクジラやトビウオの群れ……)。
人生の過酷さと理不尽さ、そして信仰によってその理不尽さに意味を見出だそうとする姿。
3D効果も含めて映像演出は素晴らしいし、物語の深みも感じる。
いかにもアカデミー賞好みのスケールとテーマを持った、良く出来た映画だと思う。
が。
ダメだった。
僕は乗れなかった。
泣ける映画ばかりが良い映画とは言わないが、涙は一滴も流せず淡々とした鑑賞に終始した。
(トラと抱き合うシーンだけは少し心が動いたけど)
映像が美しく幻想的過ぎて『作り物』という印象が拭えず、
サバイバルの過酷さが薄まって感じたのかも知れない。
トラやハイエナとの命懸けのやりとりの恐怖も、
初めて魚を殺した時の泣きながらの謝罪も、
どこかでフィクションだと割り切って観ていた気がする。
主人公と作家の対話で進む物語のスタイルも、
漂流生活の孤独感や絶望感を薄めてしまったように思う。
その為に、リチャードとの共存関係の強固ささえも。
それに、全体的に、どうも淡白。
家族とのシーンは時間をかけて描かれていたハズなのに、何故だかその絆が
非常に淡いものに感じられ、家族を失った悲しみが今ひとつ伝わらなかった。
(リチャードとの絆も然り)
「生きる事は手放す事。別れを言えずに失う事」という象徴的な台詞もその為に心に響かず。
ただ、最後の語りが真相だったとするなら物語のテーマも変わってくる気がするが——
つまり、パイはトラと共にサバイバルなどしておらず、
愛する母を奪った残忍なコックを殺し、独りきりでサバイバルしていたとするなら、
パイは残酷な現実を幻想のオブラートに包んで乗り越えたという事か。
あるいは残酷な現実を乗り越える為にトラのように残酷にならざるを得なかったという事か。
それはそれで感じ入る部分も無くは無いが、
トラとの触れ合いも別れも全部作り話だったんかぃと考えると
長々した話の最後に夢オチを聴かされたようなヤな気分になる。
うーむ、以上です。
あの作家と同様、僕の頭では『途方も無さ過ぎて意味が掴めない』だけかしら。
スピリチュアルな要素に興味のある方ならもっと感じ入る点もあるかもですが……。
<2012/1/26鑑賞>
大変評価の難しい映画でしたね。
パイはコックを殺してと同じことをした、と言っていたのでもしや…、と思うと、その過酷さ故の逃避思考だったのかなぁなど考たりもしました。