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ずっと見たかった作品を見られた。サラームボンベイとジュラシックワールドで一度見たら忘れない顔立ちと存在感を放つイルハンカーンが、大人になったパイ役で登場!しかし彼はもうこの世にいない。
カーン演じるパイ本人が語り部として、作品執筆に行き詰まったカナダ人作家を相手に、青年の頃に体験した2つの漂流記を話す。
泳ぎの上手い叔父の人生観を変えた、フランスのきれいな美しいプールを意味する名を持つピシだが、ヒンディではおしっこという意味になるので学校ではからかわれいじめられる。
ある時から、学期初めに全ての授業で円周率を暗記して言ってのけ、みんなにパイと呼ばせることに成功した。
フランス統治の名残が残るフレンチシックな街並みで、両親は母がヒンディーの植物学者、父は植物園を転じさせて動物園経営。パイは独特な環境下で、カトリックヒンディーとイスラム3つの神を信じて、叔父から水泳を習いながらベジタリアンとして育った。父からは、動物は決して野生を忘れて懐くということはないと悉く言われながら。動物園では飼い主の名前を間違えて付けられたトラのリチャードパーカーが小トラの時にパイが檻を開け手で餌をやろうとして父にこっぴどく危険性を叱られたことから、パイにとっては印象的な動物となっていた。
一家でアメリカに移住し動物園は売却しようとして船に乗り込み航海中だったが、眠りの浅かったパイだけが甲板にいるときに大嵐に見舞われ、脱出ボートに乗ることに。
ここから、大人になったパイの話では、最初にボートにいた肉料理を出す料理長は飛び落ちてきたシマウマに吹っ飛ばされてしまい、パイはシマウマと、沖を泳いできたトラのリチャードパーカーと、バナナの塊に乗ってきたオランウータンと、船から後から飛び出してくるハイエナと一緒に漂流していたことになるが、
最後まで残ったリチャードパーカーとパイで生き延びた話など保険会社は信じない。
パイは、料理長が生きるために、乗り合わせた仏教徒を食べ、次に母親を食べようと殺したためパイが激昂して料理長を殺し、脱出ボートで唯一の生存者となった別の話をしたが、保険会社はこちらも気に入らなかった。
パイの話を聞き入っていたカナダ人作家が、
シマウマ=仏教徒
ハイエナ=料理長
オランウータン=母親
トラのリチャードパーカー=パイ自身
なのではと指摘する。
そこで、どちらの話を信じたいかカナダ人作家に尋ねるパイ。ここで初めて笑顔を見せるイルハンカーン。きらりと光る白い歯が一層この話の真偽をわからなくさせる。後者の料理長もパイも殺しに手を出し人喰い生存した話が本当なのか?だとしたらきめ細やかに話された、リチャードパーカーを手懐けるための笛を用いて風向きに合わせてボートの角度を変えた訓練や、死んだシマウマを用いて漁をして干物を作り生き延びた話も全て嘘だと言うのか?
確かに、もう最期と眠りについたところでボートと筏が最初に漂着したミーアキャットだらけの真水の島が夜になると水を酸性に変えミーアキャットは木の上で眠り水を避ける話は俄に信じ難かった。ハスの花の中からはそれ以外が水面下に溶かされたであろう、人の歯も出てくる。
その後、メキシコ沖に漂着したところでトラのリチャードパーカーとは何も惜しまれず別れを告げ、パイの漂流生活や人食いしたかもしれない生活は終わり、元の人間としての生活に戻った。
両親と兄は失ったが。
現実世界では、インドを離れる前に大好きだった踊りの上手い女の子と結婚し二児をもうけ、子供には兄の名前ラビを付けているようだ。
パイの話はどこからが本当なのだろうか?
考え出すときりがないほどよくわからなかった。
でも、保険会社もカナダ人作家も、前者の話を信じた。
動物たちが沢山出てきて、真夜中の海で光るプランクトンに寄ってきたくじらや、飛び魚の群れ、月の光など幻想的で自然の脅威に晒された話。
パイが言うように、結果は同じ。どちらの話も大変な目に遭い、両親を亡くした。
同じ結果でもその過程をどう解釈するかが、宗教なのではないか?と突きつけられた。
また、人はもしそこに悲惨な真実があったとしても、たとえ脚色されていたとしようと、信じたい過程を信じる。
それだけ動物が乗っていれば糞尿問題に苦しみそうだし虎に魚をあげていたなら実際糞は出ていただろうが、そのあたりが出てこないのが不自然だった。
ただ一点。パイの生存率を上げたのには、仲間または自らに潜む存在としてのトラだけでなく、転覆した船が日本製で、脱出ボートに入っていた遭難指示書が日本製で事細かに描かれていたからかもしれない。
パイの泳ぎと数学能力と野生動物への理解が合わさり、脱出ボートと作成した筏の行き来などの生きる力に繋がった気がする。それだけ海の水面上にいれば日焼けで皮がべろべろに焼けるはずだが、そんな描写はない。3つの神を信じていたからこそ、3つの神が助けてくれたのかな?とも思うが、意識が朦朧とするまで体力を振り絞って眠りについたら、無人島に流されていたりと奇跡のような展開が重なる。
あまりにショックな日々すぎて脳が記憶を書き換えてしまったのか、覚えている事実は残酷すぎるのであえてファンタジー化したのか、よくわからない煙に撒かれる話。