別離(2011)のレビュー・感想・評価
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無垢な少女の瞳が見ている
昨年のベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したイラン映画。
複雑な心理ドラマと聞いていたので途中でギブアップしそうだなと思っていたら、なかなかどうして引き込まれた。しかし同時に胸が痛い。
14年連れ添ったナデルとシミンの夫妻は離婚の危機を迎えていた。
ナデルはアルツハイマーを患う父を思い国内に留まる事を望み、シミンは多感期の娘を思い国外で暮らす事を望んでいた。
離婚は受理されなかったものの、シミンは実家に戻り、ナデルは父のヘルパーとしてシミンの知人の紹介でラジエーを雇う。
ある日、ラジエーは用事で外出、その間に父は意識不明になる。
ナデルは激怒し、ラジエーを追い出すが、その際妊娠していたラジエーは流産してしまう。
この事を知ったラジエーの短気な夫ホッジャトは訴え…。
食い違う証言は「羅生門」を、擦れ違う心と心は「バベル」を彷彿させる。
それでも「バベル」は人と人の繋がりの希望を感じさせたが、本作は底無し沼にハマっていく。
お互い一歩も退こうとせず、言い分には一理ある。父の為、娘の為、生活の為、己の為…。
誤解、行き違い、擦れ違い…言い争えば言い争うほど、自分自身と周りの哀しみが雪だるま式に増していく。
お互い非が分かったとしても後には退けず、ズルズルと泥仕合を引きずる。
その哀しみに心が引き裂かれる。無垢な少女テルメーの瞳がそれを物語る。
リアリスティックに、ひたすら重い。
重い!ひたっすら重い!一分の隙もなく重い!
そして救われない!
アカデミー賞外国映画賞を受賞してなきゃ確実に自分は観ないタイプの映画です!
『羅生門』にも例えられてるみたいですけど、俺はんん?そうなのか?という。
勿論、多角的な視点からの証言を重ねていくプロセスはそう思いましたけど、黒澤映画の様なエンタメ感は皆無。
とてもとても。そんなそんな。
リアリスティックに、ひたすら重い。
嘘を付きて嘘を付かれる。
嘘の応酬。
浮び上がる人間性。
浮き彫りになる醜悪さ。
善人ですらが悪人に転じられてしまう危険性。
汚なさ。
やらしさ。
憎しみ。
怒り。
世間体。
プライド。
夫婦間。
親子間。
そんな愛憎引っくるめての、人間対人間。
そんなこんなでの、あのラストです。
追い打ちを掛ける様に、また更にソコに『全て』を託すなんて…重いわぁ!
誰が悪い?
誰が正しい?
誰も悪くない?
誰も正しくない?
これは精神的に安定してる方が観るに適してるかもしれません。
予備知識なしに観た自分は、口開けたまま、ひたすら唖然としてました。
重い。
クライマックスは、心が痛い…
深く普遍的。
家族の問題を主題にしながら、サスペンスフルに仕上がったイラン映画
オープニングからエンディングまで、ひとときも息が抜けない映画。
二組の夫婦、四人の男女がそれぞれ嘘をつき、隠さなければならない真実をもっている。しかも、イスラム教の戒律が、絶対である環境を持つイランという国が背景にあることが、家族を主題にした映画にもかかわらず、全編を通してサスペンスを盛り上げている。
ただし「イランだから」ということで、この物語自体が特殊なものでもなく、そこで語られるのは、夫婦や家族、信仰や価値観の問題を含めて、東西を問わず、何処の国でも、何処の家族のあいだでもおこりえることでは、ある。
結局、物語はどちらの夫婦にとっても、日本で云うところの「子は鎹」という結論に落ち着きそうになるのだが、それを映画では、あくまでも観客の想像力に委ねているところが、にくい。おそらくこういったエンディングは、日本も含めた欧米西側の、映画では、考えにくいところ。その点で、アッと驚くラスト、といえなくもない。
素晴らしい脚本です!
昨年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で観ました。素晴らしい脚本で、イラン映画ですが、現代のどの世界にも訴えるものの多い作品です。昨年私が観た映画の中で、頭ひとつ抜け出た傑作だと思いました。観ている最中、暴力や殺人など派手なシーンがある訳ではないのに、出来の良さに感動した時に感じる、ゾクッとしたものが身体に流れたのを覚えています。
とかく、3大映画祭の最高賞受賞作といっても、難しくて退屈するようなものもしばしばありますが、本作は我々の身近でも起きそうなリアリティと静かな緊迫感とで、グングン引き込まれました。
イラン国内でも史上最高に近いヒット作となっているらしいですが、このような大人の作品がヒットするというのは大したものだと思います。
既にゴールデン・グローブ外国語映画賞を獲りました。他の候補作を全く観ていないので本当は言ってはいけませんが、米アカデミー賞も期待しています。
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