劇場公開日 2012年4月7日

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「無垢な少女の瞳が見ている」別離(2011) 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5無垢な少女の瞳が見ている

2012年12月6日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

知的

昨年のベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したイラン映画。
複雑な心理ドラマと聞いていたので途中でギブアップしそうだなと思っていたら、なかなかどうして引き込まれた。しかし同時に胸が痛い。

14年連れ添ったナデルとシミンの夫妻は離婚の危機を迎えていた。
ナデルはアルツハイマーを患う父を思い国内に留まる事を望み、シミンは多感期の娘を思い国外で暮らす事を望んでいた。
離婚は受理されなかったものの、シミンは実家に戻り、ナデルは父のヘルパーとしてシミンの知人の紹介でラジエーを雇う。
ある日、ラジエーは用事で外出、その間に父は意識不明になる。
ナデルは激怒し、ラジエーを追い出すが、その際妊娠していたラジエーは流産してしまう。
この事を知ったラジエーの短気な夫ホッジャトは訴え…。

食い違う証言は「羅生門」を、擦れ違う心と心は「バベル」を彷彿させる。
それでも「バベル」は人と人の繋がりの希望を感じさせたが、本作は底無し沼にハマっていく。

お互い一歩も退こうとせず、言い分には一理ある。父の為、娘の為、生活の為、己の為…。
誤解、行き違い、擦れ違い…言い争えば言い争うほど、自分自身と周りの哀しみが雪だるま式に増していく。
お互い非が分かったとしても後には退けず、ズルズルと泥仕合を引きずる。
その哀しみに心が引き裂かれる。無垢な少女テルメーの瞳がそれを物語る。

近大