「素晴らしいです。」フライト Rewind Thatさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしいです。
この病を患ったと認識してから、ずっと観たかった作品です。噂に違わず素晴らしい作品でした。
当事者であると認識している患者たちにはこれ以上なく突き刺さる作品だと思います。反面、アルコール依存症のへの意識が低い方達にはつまらないスピリチュアル映画に映ったかもしれません。しかしこれは依存症治療の重要な概念が、キリスト教的価値観と非常に親和性が高いことによるものです。それが社会的にキリスト教が巨大な価値観を占めるアメリカにあると、ほとんど一体化してしまうのでしょう。なので、意図的にキリスト教を啓蒙しようとしている訳ではなく、あれはめちゃくちゃリアルな現実なのです。
これまでの映画で描かれてきた「緊急事態」のその後を描く、非常に意欲的な作品だと思います。どんな出来事も最終的に事務的な処理をして、全てに片をつけなくてはなりません。「さあこれから大変だぞ……fin」これで終われたらどれだけ良いか、そこが現実の厳しさ難しさのキモでありそこで終われるのがフィクションの救いです。そこからウンザリする様な作業へ踏み込んでいかなくてはならない人たちへのリスペクトを感じました。
彼の証言がどう導かれるか、徐々に浮きあがってきます。そして選択される答えは「神よ、お力を」。自ら愛し、幼児を守り死んだ美しい女性を、罪なき彼女の死後の名誉を保身のために穢す証言を要求されます。その絶望たるや…… その瞬間に全てを悟って、ギリギリで自分を取り戻した感動の演技でした。自分の醜さ、罪深さを心から自覚しないと酒は辞められないのです。あそこで嘘をついたとしても、現実的な結末としてはすぐに自殺をしていたと思います。これは嘘はいけないとかそういう話で無く、本当に現実的な結末です。刑務所で自由を得たと語る主人公の姿に全てが集約されていました。辞めた人には刺さるでしょう。まだ辞めてない人には下らなく思えるでしょう。そうこの主人公が、そうだったように。