「錆びてから振り返る鉄の女の強さと弱さ」マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
錆びてから振り返る鉄の女の強さと弱さ
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『英国王のスピーチ』『クイーン』etc.現代英国史の偉人の生涯を綴る映画は数多く、今作もその仲間だが、大きな特徴は、主人公は既に引退し、脱け殻のような状態で自身を振り返っている事だろう。
サッチャーってぇっと、やはり“鉄の女”の異名の相応しく、フォークランド紛争や大不況、ストライキ、IRAの無差別テロ、与党の裏切りetc.様々な強敵に対し、断固として屈せず、闘志を貫いたタフな現役時代を誰しもが思い浮かべる。
ゆえに、亡き夫の幻影と会話し、未だに国会へ向かおうとし、家族を困惑させる認知症が進んだ彼女の成れの果てはさすがにショックだ。
しかし、老いぼれながらも、必死に過去の我が身を思い出し、自問自答する脆さが、長年打ち明けられなかった彼女の苦悩を素直にさらけ出してくれるので、弱さが人間的な魅力と変化して伝わり、興味深かった。
フォークランド紛争に象徴されるように頑なに妥協を拒み、戦う意志を貫いた裏で、眠れぬ夜に独りもがき苦しんでいた日々は、彼女にのしかかっていた重圧を色濃く物語っている。
掛け替えの無い家族さえ犠牲にし、長年、孤独に蝕まれた末、トラウマと化す。
痴呆が進行した今の彼女を捉えてこそ、ワンマン←→臆病者の心のラリーが客に渡来してきたんだと思う。
後半から症状が悪化するため、全盛期の彼女の言動が、幻覚によるものなのか、忠実に事実に遡っているものなのか、うやむやとなってしまうのが、残念だが、単に自分の勉強不足だからと一蹴したら、それまでである。
最後に短歌を一首
『鉄の幕 今も降ろさず 蝶の意地 噛んで悔い無し 荒波のあと』
by全竜
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