「アカデミー賞主演女優賞に納得」マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
アカデミー賞主演女優賞に納得
この作品、一にも二にもメリル・ストリープの怪演。
歯に隙間まで作ったメーキャップは完璧で、仕草や喋りはまるで別人。そこには、メリル・ストリープのかけらも見当たらない。
首相時代と現代の演じ分けも見事。老人がよくやる何かをじっと見つめていたかと思えばあちこち忙しく泳ぐ目線で考え事をし、調度品に手をかけながらゆっくり歩く腰の引けといい、一度、老人を経験したことがあるのではないかというような動きをする。
この演技を観たら、アカデミー賞主演女優賞は納得である。
惜しいのは、事実を映画化した作品の多くに言えることだが、事実を描くことに没頭してしまって娯楽の要素が欠けてしまうこと。
そしてもう一点、その事実が事実となり得た要点が端折られてしまうことだ。欧米では常識的な歴史の1ページかも知れないが、日本人の私にはサッチャーは英国初の女性首相で強気な政治を行う人だというぐらいしか知識がない。どうやって首相にまで上り詰めたのかは知らない。ましてや、周りで動いた人物や政敵など知る由もなく、実名を聞かされても、そのポジションも分からずちんぷんかんぷんなのである。
いきなり大臣になっているは、あっというまに党首に立候補ではあまりに粗すぎる。
マーガレットの夫の名前がデニスということだけは、発声練習のシーンによって、しっかり覚えたが・・・。
何も分からず観る人間もいることに、もう少し気を配った演出がほしいところだ。
とある人物の半生を描いた作品によく見られる過去と現在を行き来する手法が取られているが、この手の手法を取った最近の作品の中では、群を抜いて編集が上手い。変わり目のタイミングがピタリと決まり、観ていて気持ちよく、ダレない。
監督のフィリダ・ロイドは、どちらかというと「マンマ・ミーア」のように女性を陽気に描く作品のほうが合っているようだ。
この作品では、首相時代よりも老年のサッチャーを描く現在の方が事細かい演出で上手い。首相時代の演出にもっと押しの強さがあったらよかった。
この映画を見るかぎりサッチャーは、何でも自分が、自分が・・・というタイプで、人を使う才覚には欠けていたようだ。