劇場公開日 2012年3月16日

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「「教えて、あなたは幸せだった?」」マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「教えて、あなたは幸せだった?」

2012年3月21日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

単純

頭(髪)が大きい、ちょっと怖そうなおばさん。子どもの頃のサッチャー首相の印象は、そんな程度だった。彼女を意識するようになったのは、イギリス映画に開眼してから。ケン・ローチ作品、「ブラス!」「リトル・ダンサー」等に出会うにつれ、必死に働き・生きる人々に忌み嫌われる存在、冷徹な切り捨てを行った首相、という像が脳裏に刻み込まれていく。国民に敵視されつつも、長きにわたり国政のトップに君臨し続けた続けたマーガレット・サッチャー。いったい彼女はどんな人物だったのか?
本作で冒頭から見せつけられる、老いた彼女の姿は、痛々しく、悲しい。かつての生き生きとした姿と交互に映し出されるから、なおのこと。ところが、そんな感情に素直に浸ってよいのかと迷いがわき、終始居心地が悪かった。
あの「鉄の女」でなければ…名もなき市井の女性とまでいかなくとも、一代で財を築いた女性実業家くらいであれば、このような思いは生じなかったはずだ。首相であっても、一人の女性。とはいえ、彼女が他者に与えた影響は余りにも大きく、計り知れない。彼女の孤独を見せつけられるたびに、イギリスの人々は、本作で描かれる彼女をどう感じるのだろう、という疑問がふくらんだ。たとえば、「ブラス!」等に登場した石炭まみれの男たちは? 「リトル・ダンサー」で家族と別れゆく少年は? そう思うと、どうにも複雑な気持ちになった。
さらには、「家庭と仕事」という切り口も、観る者を物語に引き込むには十分と言い難い。家庭を顧みず、仕事に邁進する。それは、明らかに一昔前に賞賛されたスタイルであり、彼女の姿には、職場で出会ってきた「強烈・猛烈」な上司が被る。必要に迫られて様々な犠牲を払い、並々ならぬ努力を重ねて道を切り開いてきたことに感服しつつも、「お手本」にしようとは思えない。彼(女)たちの、「がむしゃらに働き、闘う」生き方は、今のスタイルから余りにも離れている。彼らがどんなに「私たちのころはなかった・考えられなかった」と言っても、育児休暇や託児は存在し、仕事が何においても優先されるという考え方は廃れつつある。かつて、「犠牲」となった記憶も手伝ってか、彼らの道をたどろうとは思えないのだ。
とはいえ、次に伝える必要性が失われ、継承が絶たれるのは、そこはかとなく悲しい。伝える側にとっても、伝えられる(はずの)側にとっても。この映画が残すのは、主人公に対する力強い答えではなく、そのような感傷だ。
「教えて、あなたは幸せだった?」繰り返される幻の夫への問いかけは、実は彼女自身への問いかけであるように感じた。−マーガレット、あなたは幸せでしたか?

cma