「本物以上に本物のサッチャーが演じる、奥行きが深い深いラブストーリー。伝記物映画に共通する欠陥を、この映画は見事に回避しており、おみごとでした。」マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)
本物以上に本物のサッチャーが演じる、奥行きが深い深いラブストーリー。伝記物映画に共通する欠陥を、この映画は見事に回避しており、おみごとでした。
映画が始まったとたん、そこには本物以上に本物の、老いたマーガレット・サッチャーがいました。
最初から最後まで、あまりにもサッチャーそのものなので、映画を見ながら、「いかんいかんこれは単に役者が演じているんだぞ」と、ときどき自分に言い聞かせなければならないほどでした。
偉人の伝記映画というジャンルで、私はこれまで本当に面白いと感じる作品に出会った記憶がなかったのですが、この作品こそは文句なく抜群の会心作だと感じました。
その理由は、この映画の構成にあります。
死んでしまった人に対する、生き残った者からの一途なラブストーリーなんですよね。
もう地上に存在しない人への愛。
もはや存在しないと頭の半分では分かっていながらも、でも心には愛情が溢れて止まらない。
その一途な愛情を軸としてサッチャーの生涯を描いているから、ストーリーもブレないし、会心の作品に仕上がったのだな、と感動したのでした。
この作品を観てから、いわゆる伝記物映画がどれもこれも、私にとっては面白いと感じられなかった共通の真の理由が分かった気がします。
人生とは偶然との遭遇の繰り返しです。
織田信長などのように「国を征服する」というような大テーマによって人生を語れる人物の伝記なら、話はまた別なのですが、いわゆる「偉人」の伝記物は、偉人が遭遇する偶然のほうが比率が大き過ぎて、ストーリーに必然性が薄いのです。
だから一人の人間の人生をそのまま追って映画にすると、物語としての面白さに欠けるのだな、と気がついたのでした。
この作品は違います。
たしかに脈略なく「偶然」には遭遇するものの、一途な愛という一本のテーマの中にすべてのエピソードを包含して物語を成立させているからです。
だから巨大な業績を上げた偉人の、純粋で骨太なラブストーリーとして成功したんですね。