コンテイジョン : 映画評論・批評
2011年11月8日更新
2011年11月12日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
現実的な状況設定と念入りな技巧が寒気を誘うウイルス惨禍の恐怖
新種のウイルスの恐怖を扱った映画といえば「アウトブレイク」が有名だ。ウォルフガング・ペーターゼン監督が活劇調のスリルをこめたこの映画は、エボラ出血熱を連想させる致死率100%の究極の殺人ウイルスが引き起こすパニックを描き、ウイルスが人から人へ空気感染する瞬間の視覚化まで試みていた。
それに比べると、ウイルスの致死率がより現実的な20~30%に設定された「コンテイジョン」は、スリリングというよりひたすら不気味な映画だ。スティーブン・ソダーバーグ監督はウイルスを“見せる”ことに関心はなく、“見えない”から怖いことを熟知している。ウイルス惨禍の世界的な進行状況を「発生×日目」というテロップ付きでシミュレートし、素っ気ないほど冷徹なタッチで映画のムードを低温状態に封じ込める。フリーランスのブロガーが発信する勇み足情報が事態の混乱に拍車をかける逸話も、いかにも今風だ。
豪華キャストの巧みな配し方にも感心させられた。グウィネス・パルトロウ扮するアジア出張帰りのキャリアウーマンが冒頭いきなり発症し、病院で無残に開頭される描写に驚愕。マット・デイモン演じる夫が医師から妻の死を説明されてもまったく現実を認識できず、「で、いつ妻に会えるんです?」と聞き返すシーンが妙に生々しい。このグウィネス死亡の衝撃的な導入部を、その後の感染経路特定のサスペンスに活用する構成がまた実にうまい。リアルな不気味さを増幅させるそのうまさのおかげで、試写の最中には咳払いひとつさえ気兼ねするはめになってしまったが。
(高橋諭治)