ヴィオレッタ : 映画評論・批評
2014年5月7日更新
2014年5月10日よりシアター・イメージフォーラムほかにてロードショー
母のミニチュアとしてヌードになった、ロリータ美少女が抱く愛憎の回想録
1980年代に日本でも出版されて、話題となったイリナ・イオネスコの写真集「エヴァ」。まだ幼い少女の官能的なヌード写真は当時、センセーショナルだった。足を大きく広げ、気怠げにポーズを取るモデルが、それを撮った写真家の娘とくれば尚更である。母にカメラを向けられている時、娘は何を思っていたのか。「ヴィオレッタ」はその娘本人、エバ・イオネスコが母のモデルだった時代を振り返る私小説的な映画だ。
母のアンナに構ってもらえなかったヴィオレッタは、彼女からライン・ストーンのティアラをもらい、母の写真の世界でプリンセスになる。それはヴィオレッタが母に接近する唯一の方法だ。アンナは娘に際どいポーズを取らせることに何のためらいもない。彼女にとってそれは、より美しく若いバージョンの自分を使ったセルフ・ポートレートも同然である。やがて母と娘は、ヴィオレッタという少女のアイデンティティを巡って争い始める。
娘は無邪気な少女に戻ることが出来ない。移動遊園地や小学校というそぐわない場所で、絹のスリップ・ドレスや、映画「ロリータ」を思わせるホルターネックのセクシーなトップスを着て濃いルージュをひいたヴィオレッタには倒錯的な美しさがあるが、アンナのグロテスクなミニチュアのようだ。一方でアンナは、裁判所から親権を取り上げられそうになると、かつてヴィオレッタが着ていたのと同じようなタータン・チェックのミニ・スカートを履く。アンナは大人の世界に順応できない少女なのだ。少女にも大人にもなれない二人が作った、あまりに完璧な世界から、ヴィオレッタは死にものぐるいで逃げようとする。
「近親相姦って何?」「親と寝ることよ」「ママと私だね」
アンナとヴィオレッタの争いであるのと同時に、この作品は目が覚めるような美少女の新人アナマリア・バルトロメイと、唯一無二の個性を持つ女優イザベル・ユペールのぶつかり合いでもある。物語と同じく、勝負の決着はつかない。
(山崎まどか)