我々観客は映画をただ漠然と観ているわけではない。作者のメッセージを感じたい、理解したいという思いで観ている。作者のメッセージに共感したり、反発したりしながら、映画をより深く楽しみたいと思っている。そういう観客心理を考えるならば、全編に作者のメッセージが盛り込まれた作品の方が判り易い。しかし、本作のように、少ない部分に作者のメッセージが集約された作品の方が自然体で素直に鑑賞できる。
本作は、テレビシリーズと殆んど変らない設定であり、舞台がイタリアになっただけで新味がないとの批判が多い。確かに、私もテレビシリーズとの違和感はあまり感じなかった。
ただし、一か所ではあるが、キラリと光る台詞があった。生きる目的、意味を問われた時、主人公は、『そんなのありません。ただ、愛する部長と、一日が終わる夜に縁側で一緒にビールを飲む時、生きてて良かったって感じるだけです。』と答える。主人公の元気さの原点を表現した台詞である。毎日を、愛する人と自分のあるがままに一生懸命生きることが、生きる喜びに直結する。生きることをシンプルに考えた主人公の結論である。
生きるって何ですか?生きがいってどうすれば得られるんですか?と問われて、明確に回答できる人は少ない。明確な回答を求めて、巷には、生きることに関する書籍が溢れているが、どれを読んでも納得できない部分がある。生きることを難しく考えすぎているからであろう。理屈で判っても生きる喜びは体感できない。今日一日を一生懸命になって過ごした結果として、生きる喜びを感じるというのが自然であろう。行動してから考えれば良い。生きる喜びを体感してから何故かを考えれば良い。
そうはいっても、理屈っぽく考えなければ行動出来ないのが日本人の性。シンプルイズベスト。主人公のようにシンプルな生きる価値観を持ちたいものである。