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原作は読んでいる。オートバイファンである。
プレミアム版のDVDを買い、劇場版とディレクターズ版を両方見た。
どちらもかなり原作通りに映像化してくれているが、案外いろいろ違っている。
漫画『キリン』第一部の、掲載から25年を経ての実写映画化。
内容的に映画化というか撮影が難しいものだろうと予想していたので、期待値を下げて観たところ、「意外とちゃんと面白かった」という感想で☆4。
元々、1983年当時にして逆張り満載な漫画であり、ポエットでクール&クレイジーなノリがジワジワと来てニヤニヤとする作品だったので、本映画がクールで牧歌的でワイルドな中、ちゃんとクレイジーでニヤニヤな独特の雰囲気を再現してくれていたのは嬉しかった。
ちゃんと1本の映画作品になっており、よくやり玉に挙げられる『漫画の残念な実写化』『コスプレショー』『原作の完全劣化』のようなラインで語られる作品ではない。
---劇場版(106分)---
第一部を現代に寄せながら綺麗にまとめている。
オリジナルエピソードによる補強あり。
走行シーンが遅く見えるという指摘があるが、あくまで概念的な「速さ」での雄比べの世界だと解釈していたので、自分は気にならなかった。この漫画の特徴は、内に向かう速さなので。ホリゾンタルグレイ……なので。
走行シーンや日常のシーンも、役者さんたちや撮り方のおかげでほとんど満足。
ただ2点、原作で一番好きだった第一部のラスト
①ポルシェ乗りもモヒも「大丈夫か~!?」と勝負を捨てて駆け寄ってきてキリンを労うシーンが、存在しない
②そこから「短い可能性に火を付けられるかだって? デキ過ぎてるな…」が、原作ファンだけにはわかる程度の声無しショート映像で澄まされていた
点だけは残念。
なんとディレクターズカット版にはちゃんと存在していたので、キリンのキャラ性の補強に使った奥さん~娘のオリジナル回想はともかく、やたら多めの濡れ場や東名を走る一般家庭のシーンを削るなどして入れてほしかった。
最後、キリンもポルシェ乗りもモヒも勝負なんてどうでもよくなって仲良くなり、若さを取り戻すのが、この第一部の特段美しい所だと思っていたので。
あとまあ、この映画は酒を飲みながら男友達(たぶんほとんどオートバイ乗り)で集まってDVDにあったオーディオコメンタリーのようにわーぎゃーツッコミながら笑いながら興奮して観るのが楽しい作品だと思うので、ちょっと濡れ場が多すぎてもったいなく思った。下品な濡れ場ではないがけっこうちゃんと見えるし頻度も多いので、そういう会合的な場面に持って行くのに少しブレーキがかかるというか。個人視聴なら関係ないので、これは特段マイナスではなし。
また、ディレクターズカット版にはあるバイク屋氏が水没カタナ引き上げ、それにキリンとトモミが立ち会って「またやっちゃったよ」(てへっ)(にこっ)が入っていないので、そうなるとバイク屋の当たりのきつさは少し浮いてしまっている。あのラストのやりとりがあるとそれまでのハイテンションもなんかうまく収まるのだけど。
---ディレクターズカット版(148分)---
劇場版との違いはかなりあり、特に最後辺りが違う
・チョースケが壊れたニンジャを受け取ってしょぼんな場面がある
・今回のポルシェが、過去にキリンがバトルして事故った相手であると明示される
・由比で飛んだ後、ポルシェ乗りとモヒが集合してタバコのやりとりがある
・カタナをバイク屋氏が引き上げ、キリンとトモミが立ち会う場面がある
・ラスト前、キリンが別れた奥さん+娘に手紙を書く
などが大きな違い。
諸々丁寧だが、そのぶんプラス30分で2時間半とやや負担の大きい感じに。
監督が撮っていた時はキリンとチョースケのW主人公、もっと群像劇風・やや牧歌的なパッケージングを思い描いていたのではないかと思う内容。
タイムキーパーによる劇場版は明確にキリンだけが主人公の、ソリッドな突き抜け系に仕上がっている。ディレクターズカット版よりかなりコンパクト化しながら、牧歌性や各人の女々しさをカットしているというか。
劇場版が狙った商品展開の可能性は理解するが、やはりラストのタバコのシーン(勝負を超えて和解と救済が起きるシーン)が無かった、対して不要に思えるシーンが所々あったのは残念だったので、ディレクターズカット版とは一長一短。
・総評
原作から25年後の作品ということで、メアドやネットなど、原作時点では存在しない言葉も違和感なく落とし込まれている。
原作ではほとんど触れられなかった妻&娘に決着をつける内容となっているのも、蛇足とは感じない。(過去と向き合えず苛立っていた男、という意味が発生するのは賛否あるだろう)
キリンの職業がデザイン事務所から投資ファンドになっているのも、現代的な演出ではそうなるだろうなというところ。
2012年公開作品ということで隼やGSX-R1000が出るなど車両のアップデートは進んでいるが、GSX1100カタナ、ポルシェ911(930型)、CB1100Rは原作どおりなので、2012年の街をそれら1980年代前半の車両が激走するのはますますもって面白い絵だったりする。1983年連載時よりも、さらに各人の変態度が上がったように見える。
劇場版・DC版どちらも惜しさがあり満点ではないが、ネタっぽさもあわせて正直かなり好きな作品。
オーディオコメンタリーも視聴者的にツッコミたくなる所にツッコんでいて面白かった。
路面凍結でオートバイに乗れなくなった後は、毎年きっとこれを見て気分を紛らわせると思う。