アメリカの人気テレビドラマ「ヒーローズ」などで活躍する日本人、光武蔵人監督が、自身の主演で描くジャンル無用のアクション映画。
一見すると、作り手の思い付きをその場の勢いに乗せて物語に投げ込んでいるように捉えられる。しかし、観賞を進めていくうちにその印象は覆されていく。確かに奇妙だ、理解困難なバイオレンスだ。だが、この作品には多くの古典的名作を十分に読み込み、生かしていく確かなセンスが光っている。
その昔、アメリカを牛耳る犯罪組織のボスに愛する妻と娘を惨殺された男。彼は復讐の鬼と化し、剣の師匠のもと武士道を習得し、憎き相手を殺しに赴く。その先には、最強の刺客たち、そしてまさかの敵が待ち受けていた。
流血、日本刀、着物にガンファイト。とにかく世界各国の残虐な要素を生み出すあれこれを乱雑に混ぜ込み、荒々しいカメラワークのもと一人の男の悲しき復讐劇を全く悲しくないユーモアと阿呆らしさで彩っていく。
ここまで馬鹿馬鹿しさを地で行く勇気に、まずは賞賛を送りつつ、こんな滅茶苦茶な作品に資金を投げ出すアメリカ映画界の懐の深さに涙が止まらない。
だが、ちょっと立ち止まって本作を眺め直す。すると、イタリアのお家芸であるマカロニ・ウエスタンの基本的な流れに、アメリカから直輸入のグラインドハウスの何でもありな世界。そして、「椿三十郎」のラストシーンを思わせる日本活劇の要素を絶妙にミックスさせた独特の世界。おバカをしているようで、各国のお家芸の良さを抽出し、観客を惑わせていく。
これは、相当に頭の切れる作り手の創造世界が必要だ。日本人として海外の日本への偏見を逆手に取り、笑いに転化する度胸と心意気も小気味良い。少々過激な描写が目立つが、それに怖気づいて本作の破天荒なイマジネーションを見逃すのは非常に勿体無い。
是非とも、覚悟して本作に立ち向かって欲しい。そして、アメリカ仕込み、日本印の多国籍アクションの真髄を目の当たりにして欲しい。