劇場公開日 2012年3月2日

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「スピルバーグ魂ここにあり!復活出来るか彼の映像作家としての力量はいかに?」戦火の馬 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0スピルバーグ魂ここにあり!復活出来るか彼の映像作家としての力量はいかに?

2012年3月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

やっぱりさすがスピルバーグやね!これぞ映画の醍醐味ってものを展開してくれる!
あなたは、映画を観る楽しみをどんな点に求めているのだろうか?
私は、スピルバーグの「激突」や「ジョーズ」は「スターウォーズ」と同様に絶対に大画面で観る楽しみを第一の目的として制作されている作品群だと考えているのだ。
昔でいうところの70ミリ・シネスコ映画という、デカイスクリーンで、そのド迫力のある画面を楽しむエンターテイメント性を重視した作品が、映画の楽しさの要素として重大だと思うし、そこに原点を置きながら作品作りがされているのが、そもそもハリウッド映画と言うものではないだろうか?それと比較するとヨーロッパの映画はヒューマニズム+リアリズムを追求した映像的な画面で見せるスケールのある美しさとか迫力の有る映像美や、その為の視覚的効果そのもので観客を楽しませる視覚表現よりもより「映画の中で語られる人間のキャラクター」の面白さとか、物語が持つドラマとしての内容の深さであるとか、
描かれる人物像の心理的葛藤などの側面に重視して制作されている作品がヨーロッパ映画の中には多い特長の様に思うのだが、その視点でこの「戦火の馬」を観ると、いかにもスピルバーグらしい、ドラマチックな映像美の優れた作品なのだ。
主役である、その子馬は、広大な緑の何処までも続くその美しい大草原の中で誕生し、やがて月日が経ち、その子馬は戦争に駆り出されてゆく、すると緑の大草原が一転して戦場の暗く重い生き辛い環境に変化する事で、観る者達に戦争の恐ろしさや、人間の醜さ残忍性などを瞬時に悟らせるのだ。これこそが映像が成せる力であり、映像と言う視覚表現手段を用いた芸術表現と言えるのだと思う。
そしてもう1つこの作品の面白さは、様々な形で登場する人間とこの馬との繋がりだ。
ここに人間が生きて、死に逝くまでの人生に起こる出会いのドラマ、人や動物たちがその生涯に経験する運命のサイクルとしての、縁というものが織り成す神秘性を描いている点にこそ、この映画の面白さがあるのだと思う。
人の生涯には幾多の足かせが有り、その思うにまま成らない理不尽な世界にあっても、一途に生きる事で、必ず道が開かれていく、生きる事そのものが持ち続ける力の素晴らしさこそは、やがて希望へとその力を変化させ、希望を失わずに人が生きていく事が出来るなら、その希望こそは、あらゆる困難をも退けてしまう力を備えていると言うスピルバーグの哲学が根底に有る様に思うのだ。
そのジョーイと言う馬を愛して、決して再開を諦めない一途なアルバート青年を演じた新人のジェレミー・アーヴァインの存在もこの映画の魅力の大きな点の1つだと思う。これからの彼の活躍に大いに期待したい!
スピルバーグの監督した作品では、「シンドラーのリスト」や「プライベート・ライアン」など戦争を描いた社会派の作品も少なくないが、今回も子馬と少年を軸にして描き出される第一次世界大戦の物語を彼が制作する背景には、やはり彼が若い時にヴェトナム戦争反対の世論の大きな波が彼らの世代を中心に起きていたと言う社会背景の要素が色濃いと思うのだ。ここに「ET」「ジェラシック・パーク」だけでない彼のもう1つの側面がある。

ryuu topiann