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◯作品全体
作品後半、過酷で畳み掛けるような物語にとても惹き込まれた。
戦争中の理不尽な世界は人も馬も同様で、自分が居たいと思える場所に居られない悲しみが心に刺さる。
ジョーイが泥だらけになりながら足をよろめかせて大砲を引いたり、鉄条網まみれになってしまうところは思わず目を背けそうになった。生きたいという気持ちが人よりも純粋な分、足を踏み出す動作から伝わる感情がとても大きい気がした。
軍馬を中心に据えることで「兵士」とか「ドイツ人」とか、記号化された物ではなくて、生きている個々なんだ、としているのも良かった。
戦争映画では敵兵を敵兵としてではなくて、生きている個人であることを印象付けるシーンがよく出てくるけど、本作では軍馬さえもその一つなのだ。
一方で気になったのは「ドラマチックさ」だ。
物語的はドラマチックであってもいいんだけど、演出や芝居の過剰な「ドラマチックさ」がノイズに感じた。
例えば序盤、畑を耕せないジョーイを撃ち殺そうとする父親のシーン。ジョーイやアルバートたちに緊張が走る場面だけど、なにもかもがハリボテだと感じる。そもそも開墾に向いてないことを承知で父は買ってきたのだし、いっときの衝動だとしても、父が銃口を向けるに至るフラストレーションを描ききれていない。その状況で銃口を向けても、過剰な芝居プランとしか見えないし、メタ的に言ってしまえば、こんな序盤で銃を撃てるわけがない。映像的には緊張感があるけれど視聴体験的には「撃つ気のない、お決まりの緊迫」としか見えなかった。心の底から登場人物が動いていないような、制作者の意図が前に出てきてしまっているハリボテさがあった。
ジョーイが雨の中で耕すシーンも色々過剰だった。群衆がまるで指示でもされているかのように一斉に現れ、一斉にいなくなり、そして一斉に戻ってくる。壮大でやけにボリュームの大きいBGM含め、味付けが大雑把だった。
作品後半はそんなことしてる余裕も無くなってきたのか、あんまりドラマチック過ぎるシーンはなかったけど、戦車を飛び越えるところはド派手にドラマチックだった。戦争に振り回され続けたジョーイがフラストレーションを爆発させるような演出ではあるんだけど、そのあともまだまだフラストレーションは降ってくるわけだし、あんまり適切じゃないところにドラマチックが入ってるな、と思ってしまった。
ラストの夕景は純粋にとても綺麗で、物語の終わりにふさわしい画面に感動した。…感動したんだけど、ジョーイの無表情な横顔で物語を終わらせるにはジョーイに自分の感情を語らせすぎてる気もした。ところどころジョーイに人間と同じような芝居をさせてジョーイの感情を語らせたりしていたけれど、そんな露骨に語らせなくても、ジョーイがいる環境を見せることで全然表現できたと思う。
これは好みの問題なのかもしれないけど、ラストのジョーイは、今までのジョーイの感情を全て語るためにあって欲しかった。言葉では話さないジョーイだけど人と同じように戦争でいろんな経験をして、今そこにいることを噛み締めている。そのことを、ラストカットで全て味合わせて欲しかった。それは顔を映さずともできるはずだ。純粋な欲求のもと自由に走る馬の美しさは、表情で語るよりも饒舌に語ってくれるのではないか。
◯カメラワークとか
・やっぱりラストシーンの夕景とシルエットが素晴らしかったな。すべてが終わったあとシンプルな画面と静寂。
◯その他
・そんな色々見たわけじゃないけど、スピルバーグ作品の冒頭とか導入が苦手かもしれない。家族同士の会話とか、シーンの始め方とかがすごく嘘くさく見える。ジョーイが軍隊に売られてしまうシーンとか、冒頭でアルバートが「今日は農業祭だ!」って走りながらジョーイのもとへ向かっていくんだけど、すごい嘘くさい。カメラに映っていることを前提に、今日という日をわざわざ説明してる感じ。