悪魔を見た : 映画評論・批評
2011年2月22日更新
2011年2月26日より丸の内ルーブルほかにてロードショー
“復讐”を突き詰めることによって描き出した「この世の地獄」
復讐者が思いを遂げたと確信できる一線はどこにあるのか。どこまでやれば加害者が被害者と同じ痛みや苦しみ、あるいはそれ以上のものを味わったことになるのか。
時間がたんまりあれば、目的や一線をある程度、明確にすることもできる。「オールド・ボーイ」では、復讐者が15年を費やして対象を自分と似た境遇に陥れ、痛みや苦しみを思い知らせようとする。「完全なる報復」の復讐者は10年を費やし、加害者を惨殺するだけではなく、司法制度に戦争を仕掛ける。
「悪魔を見た」の復讐者、婚約者の命を奪われた国家情報院捜査官にはそんな時間の余裕はない。だが、確保した犯人を徹底的に痛めつけ、息の根を止めるだけで思いを遂げられるとも考えていない。だから限られた時間を強引に引き延ばそうとする。
故意に犯人を泳がせ、新たな犯行に及んだ男が欲望を満たす直前に厳しい制裁を加え、再び放り出す。犠牲者になりかかる女性の心情も気にかけないその冷徹な姿勢には、すでに狂気を垣間見ることができるだろう。
悪に挑む者が自分も闇にとらわれてしまう話はよくあるが、この復讐劇はそれほど単純ではない。たとえば「ダークナイト」で、バットマンが強くなるほどにジョーカーが悪辣になったように、この映画でも復讐者が悪魔を目覚めさせる。キム・ジウン監督は、凄惨な描写や救いのない展開に対する拒絶反応を恐れず、“復讐”を突き詰め、この世の地獄を描き出してみせる。
(大場正明)