奇跡 : 映画評論・批評
2011年5月31日更新
2011年6月11日より新宿バルト9ほかにてロードショー
“未来の国民的スター”誕生を目の当たりにできる奇跡的映画
九州新幹線の一番列車がすれ違う瞬間を目撃すれば、奇跡が起きて、願いが叶う。本作の鹿児島と福岡に住む小学生たちを熱狂させるのは、こんな小さな伝説でしかない。だがその小さな伝説が、映画「スタンド・バイ・ミー」の少年たちによる線路づたいに歩く死体探しの旅にも似た冒険を呼び起こす。そしてその通過儀礼のような冒険から帰ってきた少年少女たちは、ひとまわり大きく成長を遂げる。見終わった後に残るほのかな余韻は、彼らの成長を見届けられる歓びに起因している。
こんな愛すべきオリジナル脚本を仕上げた是枝裕和監督は、両親の離婚によって鹿児島と福岡へと離ればなれになった大阪出身の兄弟を軸に、2人の家庭生活や学校生活を丹念にすくい上げている。些細な日常の中から降って湧く小さな冒険に、少年少女たちは本気になり、そのキラキラとした表情や身ぶりはまばゆいばかりで、作り手側の微笑ましげな視線が大いに伝わってくる。
「誰も知らない」で子役の柳楽優弥にカンヌ国際映画祭主演男優賞受賞をもたらした是枝監督は、日本映画界の“奇跡”ともいうべき天才子役、前田航基くんを大抜擢している。お笑いコンビ、まえだまえだの弟・旺志郎くんとの兄弟役が相乗効果を生んだのか、圧倒的な存在感と堂々たる風格を見せつけている。彼がいるところに涙と笑いが自然と生まれる。“未来の国民的スター”は約束されたも同然だ。
(サトウムツオ)