ブロンド少女は過激に美しく : 映画評論・批評
2010年10月5日更新
2010年10月9日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
現役最長老の映画作家による洒脱で機知に富んだエロティックな小咄
なんと100歳を越えた現役最長老の映画作家マノエル・デ・オリベイラの、信じられないほどの艶っぽさとみずみずしさにあふれた新作だ。冒頭、列車の中で、主人公マカリオが隣の美しい夫人に「『妻にも、友人にも言えないような話は、見知らぬ人に話すべし』と言います。どうか、私の話を聞いていただけますか」と語りかける。
まるで、フェルナンド・レイが乗客に<宿命の女>をめぐって打ち明け話を始めるルイス・ブニュエルの遺作「欲望のあいまいな対象」とそっくりな導入部に笑ってしまう。「昼顔」の続編をぬけぬけと撮ってしまったこのポルトガルの巨匠は、明らかに晩年のブニュエルと同様、あたかも玩具を弄ぶように<映画>そのものと優雅に戯れている。
マカリオはブロンドの少女ルイザへの狂恋のてん末を切々と打ち明けるが、時おり、相槌を打つ夫人は、謎めいた微笑で受け止めるだけ。見る者は、若き日のドリュー・バリモアに似た小悪魔ルイザに翻弄されるマカリオの滑稽で悲惨に満ちた運命譚を、時には微苦笑し、時には固唾を呑んで見守るほかない。
向かい合った窓際からのルイザの媚態をこめた眼差し、赤い絨毯が敷かれた階段を走り去っていくメロドラマ的なイメージ、キッスの時に片足をすっと上げるポーズ……ハリウッド映画のルーティンを臆面もなく活用しながらも、語り口は巧緻をきわめ、まぎれもなく皮肉な箴言(しんげん)を伴う西欧的な風刺劇の伝統の厚みを感じさせる。洒脱で機知に富んだエロティックな小咄を堪能したという贅沢な余韻だけが残るのだ。
(高崎俊夫)