劇場公開日 2010年11月20日

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黒く濁る村 : インタビュー

2010年10月30日更新

シルミド SILMIDO」(03)で韓国映画初となる1000万人の観客動員を記録したヒットメイカー、カン・ウソク監督の最新作「黒く濁る村」が11月20日から公開となる。本作は韓国で過去最高のアクセス数を記録したWEBコミックを映画化したミステリードラマ。20年間音信不通だった父親の死の真相を探るため、山奥の村にやって来た青年ヘグクが、その村の忌まわしい過去をあぶり出していく。第23回東京国際映画祭「アジアの風」部門に出品された本作のプロモーションのためカン監督が来日し、インタビューに応じた。(取材・文:編集部)

カン・ウソク監督 インタビュー
「今こそ本当の意味で“救い”が必要な世の中になっている」

父親の死の真相に迫る主人公ユ・ヘグクをパク・ヘイルが好演
父親の死の真相に迫る主人公ユ・ヘグクをパク・ヘイルが好演

「韓国のスピルバーグ」と呼ばれるだけあり、代表作「シルミド SILMIDO」はもちろん、「公共の敵」など、これまでに製作してきた映画のほとんどは骨太かつ娯楽性豊かなアクション映画だった。だが、本作では「人間が他人に与える恐怖とはどういうものなのかを追求したかった」と語るように、人間の心の奥底に潜む感情をじっくりと描き出すミステリードラマに挑戦した。

カン・ウソク監督 お姉さんが牧師だが、本人は無神論者とのこと
カン・ウソク監督 お姉さんが牧師だが、本人は無神論者とのこと

「もともとミステリーは好きで、自分に適した題材を探していたんですが、なかなかしっくりくる題材がなく、今回このWEBコミックを読んで、ようやく『これだ!』と思えるような作品に出合いました。コミックは好きではないので、ふだんはあまり読まないのですが、今回は強く薦めてくれたスタッフに感謝しなくてはいけませんね(笑)」

映画は、主人公ユ・ヘグクが父親の住んでいた村の忌まわしい過去を掘り起こしながら進行する。村の成り立ち、父親ユ・モッキョンの素顔、ヘグクを助ける女性ヨンジの思惑、30年前に起こった祈祷院での集団殺人事件の真相などが明るみになっていくなかで、ヘグクは村の精神的支柱でカリスマ的存在だった父親ユ・モッキョンと、その父親のカリスマ性を利用して村を統治していたチョン・ヨンドク村長が対立していた事実に突き当たる。

「ヘグクの父親ユ先生は『人間は正しく生きるべきである』『罪は犯してならない』という信条のもと、罪のない世界をつくろうとした理想主義者。その一方で、政治家であるチョン村長は欲望に満ちた人間で、お金で更なる権力を握ろうとしている現実主義者なんです。現在、我々の生きる社会では、絶えず現実主義者が理想主義者に打ち勝つという状況にあり、それをそのままこの村に投影させました。つまり現代社会は権力やお金といったものによって支配されていて、理想や夢によって教化されている状況ではないということ。この善悪を超えたイデオロギーが、混濁した現在の韓国という国の有り様をこの2人のキャラクターを通じて描いてみたわけです」

本作の主人公はソウルからやってきて村を外部目線で探っていくヘグクだが、観客にとって、最も印象に残るキャラクターは現実主義者のチョン村長だろう。「シルミド SILMIDO」以降すべてのカン監督作に出演しているチョン・ジェヨンは、実年齢40歳ながら、毎日3時間以上のメイクを施し、くせのある白髪の老人を熱演。当初は村長役での出演を固辞していたそうだが、粘り強く説得した監督の期待に応えた。

圧倒的な存在感で村を支配する チョン・ヨンドク村長(チョン・ジェヨン)
圧倒的な存在感で村を支配する チョン・ヨンドク村長(チョン・ジェヨン)

チョン・ジェヨンを見るにつけ思うことは、実に多くの顔を持っているということ。コミカルな面、タフな男らしさ、暴力団員のようなすごみ、田舎の青年のような純朴さ……例えを出したらキリがない。あるとき、彼に老け役をやったらとても似合うのではないかと冗談で言ってみたことがあるんですが、ちょうど今回の原作マンガを読んだときに、この老人役はチョン・ジェヨンしかいないと思いました。すぐに彼にオファーしたんですが、そのとき彼は、自分が演じるのはパク・ヘイル扮するヘグク役だと思っていたらしく、『何でオレが老人役なんだ?』と驚いていました(笑)。彼にとってチョン村長役はこれまででもっとも大変な仕事だったと思いますが、本当に素晴らしい演技力で乗り切ってくれました」

ミリオンダラー・ベイビー」「バベル」「シークレット・サンシャイン」、そして最近の「クロッシング」など、近年、宗教の無力さを描く映画が多数製作されているが、カン監督は世界の現状についてどう思っているのだろうか?

「毎日ニュースを見るたびに、自分がいかにおぞましい世界に生きているのかということを感じます。こんな時代は宗教にすがらないと生きていけないという人がたくさんいて当然。映画を作る人間からしたら、現在の状況は、至るところに素材やテーマが落ちているわけで、ありがたいことなのかもしれませんが、そうもいっていられないくらい酷い状況になってしまいました。今こそ本当の意味で“救い”が必要な世の中になっていると思いますね」

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