「これはスピルバーグの映画です」ヒア アフター こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
これはスピルバーグの映画です
おそらく、この作品を観た方は、昨年公開された「ラブリーボーン」を思い出すに違いない。実は、両作ともスピルバーグ製作だ。今まで夢のある映画を撮り続けていた彼も、人の行く末である「死後の世界」にしか興味をもたなくなったのか。それとも、ユダヤ教徒がよく言う「あの世が真実の世界」を信じるようになったのか。いずれにしても、この作品、「ラブリーボーン」と同じようにスピルバーグ色の濃いお話になっている。
アジアの旅行中に津波被害に遭遇し、臨死体験をして帰国したフランス人の女性ジャーナリスト。以前は霊能者として活躍していたが、それが自分の心の負担になり、普通にサンフランシスコに暮らす男。仲の良い双子の兄を亡くし、ヤク中に苦しむ母は施設に入り、寂しい思いでロンドンに暮らす少年。この作品は、以上の三人の物語が並行して語られ、最後に糸が紡がれるように出会うという内容だ。この中で、特に感動的なのは、兄を亡くした弟の物語である。ヤク中でも母が好きでたまらなく、兄を慕う思いでロンドンの街をさまよう姿は、観ている者の胸をうつ。イーストウッドは、この少年を演出したいと思って監督を引き受けたのか、と思わせるほどだ。
ただ、これまでのイーストウッド映画に比べると、人物の掘り下げが浅く、死後の世界や霊界という重いテーマを掲げているにしては、軽い感じがする作品だ。そこが、スピルバーグ色なのである。スピルバーグの映画に人間的な深みを要求すること自体、あまり意味のないことなのだが、イーストウッドも演出するにあたり、人間的なものを省略して、霊界や死後の世界という現実世界でないものに焦点をあてる、スピルバーグ色でやろうという思いがあったのだろう。それでも、見事にまとめあげて、感動作に仕上げている、イーストウッドの職人技には感心させられた。テーマが重くても、エンタテイメントにもってくるイーストウッドの力量に、注目してほしいと思う。