夜明けの街で : インタビュー
「知らない自分がいた」深田恭子、東野圭吾の恋愛劇で大人のかけひき
深田恭子が、ベストセラー作家・東野圭吾の初の恋愛小説を映画化した「夜明けの街で」で、大人の恋愛劇に挑む。深田自身が持つ可憐なイメージの女性像とはひと味違う、影のあるミステリアスな魅力で、岸谷五朗演じる妻子ある主人公を翻ろうするという役どころだ。横浜を舞台にした大人の恋愛劇で、“深キョン”のイメージから脱皮した深田が、新たな一面を見せる。(取材・文:編集部、写真:本城典子)
建設会社のエリートサラリーマン渡部和也(岸谷)は、同じ部署で働く派遣社員の仲西秋葉(深田)とある夜の出来事をきっかけに恋仲になる。美しい妻とかわいい盛りの娘を持ち、これまで不倫など考えたこともなかった渡部だが、複雑な家庭環境で育ち、どこか暗い影を持つ秋葉を守ってやりたいという思いが募る。そして、秋葉が時効を目前に控えた15年前の殺人事件の容疑者として疑われていることを知り、残酷な恋におぼれていく……。原作は東野ならではのサスペンス要素も含みつつ、純粋なラブストーリーとして書かれた作品だ。
深田にとって東野作品への出演は、WOWOWでドラマ化された「幻夜」に続いて2作目となる。「東野さんの作品は、人間がちゃんと人間らしくて、演じるのが難しい役ばかりだと思う」と分析する。「幻夜」でも影のあるヒロインを演じたが、秋葉には、女性として感情移入しづらい違和感を覚え「『幻夜』の美冬という女性は、悪女なんですけどすごく好きだったんです。でも、秋葉は女性の好きな女性じゃなくて、男性が好きな女性の気がしたんです」と明かす。
「東野さんに今回お会いしたとき、『女性に嫌われそうな役なのに、演じてくださってありがとうございます』って言ってくださったんです。台本を読んだときの印象は間違ってなかったのかなって思って、ホッとしました。私のこのもやもやはそれだったのかな、何か共感しづらい部分があったのも、そこなのかもしれないなと思いました」
秋葉は、自らのすべてを渡部には明かさない謎めいた女性として描かれる。けれどもそれには、想像できないような悲しい理由があった。「どうやってこの女性は生きてきたんだろう、この道しかなかったのかな、この苦しみを誰か救ってあげたり、助けてあげられなかったのかな。恋愛観にしても、生き方にしても、秋葉は変に強すぎるところがあるというか……助けてあげたいです」とひとりの女性として秋葉の身の上を思い、苦しげな表情で語る。
公開中の映画「セカンドバージン」では、夫に不倫される妻を演じたが、本作では反対に、不倫をする立場となった。深田自身は、妻子ある男性との恋愛は「一人でも悲しい顔をする人が増えてほしくない」と、きっぱり反対の姿勢。しかし、フィクションとして特殊な事情を持った秋葉、そして秋葉を支える渡部との秘めた恋の意味を、納得して演じた。
「秋葉一人で立ち向かえないような状況の中、渡部さんがいたからこそ、秋葉が秋葉でいられた部分があると思うんです。渡部さんの熱さや人間らしさがすごく心に響いて、あっという間に心の鍵が開いて恋に落ちて……。今回は渡部さんにも秋葉にとっても、その時間がかけがえのない、決して否定できない位に大切な時間だったんだと思います」
「沈まぬ太陽」で力強い人間ドラマをつくり上げた、若松節朗監督がメガホンをとる。セリフや表情など、カットごとに細かい指示を出されたという。
「現場で監督が、『不倫っていうものはこういうものなんだ』っておっしゃっているのを聞いて、いちいちショックを受けていました(笑)。新しい深田恭子をとにかく出したいと言われましたね。もう監督に毎回喝を入れられて、役に入りきって、自分の身を削ってやっと撮影を終えた感じです。(完成を見て)自分の知らない自分がいましたね」
同作のほかにアニメ映画「豆富小僧」(声優)、「こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 勝どき橋を封鎖せよ!」「セカンドバージン」「ワイルド7」(12月21日公開)と出演映画が今年は5本公開、来年のNHK大河ドラマにも出演決定と、幅広い役を絶え間なく演じている。
「頭では切りかえられても、悲しい気持ちっていうのはそう簡単には心からなくならないんです」というように、役に入り込むほど、撮影後もその気持ちを引きずることが少なくないという。特に、今年の出演作は“何かを”背負った女性の役が多かった。今後やってみたい役を問うと、「役をやるたびに影響されたり、いろんな考えを持ってしまうので、今はすごくふだんの自分が幸せになれる役がやれたらっていうのが理想です」と、笑顔で語った。