ザ・ウォーカー : 映画評論・批評
2010年6月15日更新
2010年6月19日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
新たな近未来世界の創造と、「シン・シティ」以降の映像表現を目指す強い意志
すべての色に意図がある。画面に映し出される映像のどの部分も、撮ったままの色ではない。その色調は単純なセピアではなく、焦げた大地の茶色に、世界から失われたさまざまな緑の色を加えた混合色。その色相に彩度と明度のありとあらゆるバリエーションが掛け合わせられる。さらに、一画面の色調は単一ではなく、ある部分は焦茶色に近いが、ある部分は緑色を強く帯びている。この微妙に変化し続ける色調に網膜を委ね、音楽に身を委ねるように全身で味わう。すると、ヒューズ兄弟がこの映画で試みたのは、色彩で物語を語ることなのではないかと思われてくる。
この色調を際だたせるため、画面の構成要素は少なく、構図は単純化されている。基本的な構図は、広大な荒地をひとりで歩き続ける男。世界は壊れたままにどこまでも広く、人間はあまりに小さい。この構図は、本作の主人公が西部劇の荒野を行くガンマンの系譜に連なる、神話的存在であることを明らかにする。構図の単純化は、この物語の象徴性を強調するためでもある。ヒューズ兄弟は、こうして物語を視覚で語ろうとするのだ。
ここには、「ブレードランナー」でも「マッドマックス」でもない近未来世界像の創造と、「シン・シティ」「300/スリーハンドレッド」以降の映像表現を目指す、強い意志がある。本作の全米公開後、名作アニメ「AKIRA」の実写版リメイクの監督に抜擢されたヒューズ兄弟が、どんな表現へ向かうのか、今後の動きがかなり気になる。
(平沢薫)