全幕を1つのセットだけで上演する舞台を一杯飾りというのだそうな。そんな舞台をネタにした映画が「キサラギ」の成功以来、定期的に目にするようになった。本作もそのひとつ。
まず、この手の作品としては、登場人物が14人と多いのが特徴だ。また、これまでは映画的表現を生かすためロケ・シーンが多く取り入れられたが、本作ではオープニングとエンディングのほんの数分だけである。本題に入ってからはラストまで、地下のバー、文字通り一杯飾りの密室推理劇となる。実は、終盤にほかの映像が入るのだが、密室の枠から外に食み出ない。この流れは絶妙だ。映画の魔力を巧妙に生かしたと言えるだろう。冒頭、三影と前田が階段を下りてくるカットで流れが途切れ、トーンが落ちたことや、カウンターの中のカメラが同じラインを行き来する単調さを帳消しにした。
話が進むに従って、14人の人間関係、力関係が浮き彫りになる手順は常套だが、謎の紐解きが緩みそうで緩まない繰り返しを続ける脚本がよくできている。“苦い密”という主題もはっきりして納得がいく作りだ。終わりは爽やかで気持ちいい。
このような良作が、都内でも1館だけの公開というのはなんとも寂しい限りだ。
高木(高橋ひとみ)が握手したというタイガースとは・・・? それが解る人こそビートルズ世代だ。当の高木が握手したメンバーの名前を思い出せない目の前に森本タローがいるのが可笑しい。そして、タローの役名が“沢田”というのは狙ったのか??