「復讐という更生。」告白(2010) ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
復讐という更生。
予告を観た時点で気味の悪い話だと想像していたが、
それは鑑賞後でもまったく変わらない気持ちだった。
そこいらのホラー映画よりはるかに恐ろしい、
虚実入り乱れた独白形式をうのみにすればするほど、
とめどない復讐の連打を見せられ陰鬱な気持になる。
ネガディブながら最後まで目が離せないストーリーを
今回は派手から遠のき、地味ながら的確な映像美で
淡々と紡いで魅せた監督の手腕には脱帽する。
愛娘を教え子に殺された女教師。
少年法に守られたその13歳を犯人A・Bと名指しし、
復讐を仕掛けたと言い放ち、教職から降りていく。
それまで騒然としていた教室は静まり返り、
すぐに犯人探しのメールが飛び交い始める。
冒頭からショッキングな場面となるが、この話は
犯人が判明してからのそれぞれの告白が主となる。
若年層が引き起こす猟奇犯罪は、未だに減らない。
今作の中でも似たような犯罪や、そこに辿り着くまでの
心の軌跡が明かされるが、私から見ても、なぜ殺人を
犯さなければならないのか明確な理由が見当たらない。
有名税が欲しいからとスクープ目当てで起こす犯罪。
通りすがりや成り行きで関係ない人々を巻き込んで
大量殺人の果て死刑になりたいなどと身勝手な告白。
また今作の中でも描かれるように、ほぼ犯人の誰もが
世間の注目を集めたいという部分に集中している。
なぜ自分を過小評価し、世間を過大評価するんだろう。
有名になった自分を世間が忘れなければ満足なのか?
残念ながら、どんな事件も時が経てば忘れ去られるし、
陰惨な事件で有名になった自分を世間が思いだすのは
次の陰惨な事件が起こったときでしかない。
本当の本心はそうじゃなくて、たった一人でもいいから
自分が願う人に振り向いて欲しいんじゃないだろうか。
親(これがいちばん大きいが)でも恋人でも友人でも。
ありのままの自分を認めて受け入れてもらいたい願望。
受け入れて貰えないからと反発するのは、子供じみた
我儘にとれるが、それを大人になってもやり続けるのは
子供時代からその安心感を味わえてこなかった証拠だ。
どの人間にもどうしようもない欠点があるものだが、
それを受け入れ貴方が大切なんだと、自信を持って
愛してくれる存在が人間には必要だ。心の拠り所は
自分が有名にならなくても、いつでも傍にあったはずで、
自分が手を伸ばせば必ず親身になってくれたのである。
今作でいうなら、犯人の親たちがそうなるべきだった。
Aの親にもBの親にも欠点はある(というか多い^^;)
でももしこの親たちが、子供に対して溺愛ではなく、
放任でもなく、体罰でもなく、怯えや遠慮でもない、
態度がとれていたら、子供側が抱く不安が少しでも
減ったという可能性はなかっただろうか。
離婚で母親が去っても、友人にバカだと言われても、
なんのこれしき!と大胸を張れる強さ。
逆境に負けない強さが養われるのは、逆境に強い
環境に育つことだと私はいつまでも思っている(爆)
松たか子のさすがの演技には目を見張ったが、
この先生の果たす復讐を観たままで終わらせたくない。
監督が最後に入れた台詞が、観るものの予感を刺激し
真実はそうだったのかと気付かせる行いであって欲しい。
生徒の目線と価値観まで降りて命に対する授業を行い、
もはや不可能と思われた更生を試みたと受け取りたい。
目には目を。歯には歯を。では何の解決にもならない。
(この先生は最後まで先生であったと私は思いたいので)