ソラニン : 映画評論・批評
2010年3月30日更新
2010年4月3日より新宿ピカデリー、シネクイントほかにてロードショー
厳しい現実に対し、もがき苦しむ姿を宮崎あおいが好演
メガネ男子な種田と森ガール風な芽衣子という、まさに画に描いた草食系カップルの愛らしい日常。そして、大学卒業後に直面する厳しい現実に対し、悩みもがき苦しむ姿。状況は違えど、誰もが経験する青春のひとコマを、映画初監督となる三木孝浩は見事に捉える。
綴られるエピソードの順序は若干異なるものの、淡々とした空気感で、コミック原作まんまのセリフを発する登場人物になりきった俳優たち。種田を演じる高良健吾は「フィッシュストーリー」「BANDAGE」でもバンドマンを演じてきたが、肩の力が抜けた本作が段違いにいい。原作でも映像的な見せ方を意識していたが、原作ファンを裏切らない配慮は「20世紀少年」に近い。そして、大切な人の死から新たな一歩を踏み出そうとする、芽衣子を演じる宮崎あおい。CMでも披露しているヘタウマな歌唱力を含め、彼女の発する尋常じゃない愛らしさで「少年メリケンサック」同様、“宮崎あおい観賞映画”としても十分に成立している。
だが、もっとも評価すべき点は原作で表現できなかった、もうひとつの主役・音楽だ。原作には歌詞だけ出てきた楽曲「ソラニン」にメロディをつけたASIAN KUNG-FU GENERATION。青春時代の特有の切なさや虚無感を、サントラとして奏でるストレイテナーのホリエアツシ。2組のアーティストの力により、「ソラニン」の世界観はさらに広がった。“体温の低い作品”ではあるものの、「BANDAGE」よりも「NANA」よりも90年代初頭のリアルな匂いを漂わせる。あの時代を知る者としては、胸に熱いものがこみ上げてきた。
(くれい響)