おとうと : インタビュー
吉永小百合、笑福亭鶴瓶主演の「おとうと」で、山田洋次監督作品に初出演を果たした加瀬亮。独特の存在感で、どんな作品にも彩りとアクセントを加えてきたカメレオン俳優は、日本映画界の巨匠の最新作にどのような気概で臨んだのか。映画にこだわり続けてきた男のこれまで、そして、これからに迫る。(取材・文:編集部)
「厄介」という言葉に愛しさを抱く、加瀬亮の奥深さ
■対等に扱ってくれた吉永&鶴瓶
同作は、山田監督にとって「十五才・学校IV」以来10年ぶりの現代劇。東京で夫亡き後もひとり娘を育てながら真っ当に生きてきた姉と、大阪で多くの問題を起こしてきた出来の悪い弟の再会と別れを通して、家族とは何かを問いかけていく。加瀬は、姉・吟子のまな娘である小春(蒼井優)の幼なじみで大工の亨に扮する。
クランクイン前、山田組の現場は怖くて厳しいものと考えていたそうだが「実際は全くそんなことなかった。監督は映画作りに夢中で、いつも楽しそうでした。吉永さんをはじめキャストの方々は謙虚で純粋に作品と向き合っているし、鶴瓶さんはいつも笑いを振りまいてくれて、本当に居心地が良かったですね」と振り返る。なかでも、吉永と鶴瓶の周囲への気遣いは強い印象を残したといい「主役のお二人がムードメーカーになってくれて、僕たちの“面倒をみる”感じがなく、いつも対等に扱ってくれました。何の疑問も感じずに信頼することができました」
■自分はもっと屈折している(笑)
山田監督は、同作を「家族という厄介な絆」という言葉で定義づけている。加瀬は、この「厄介」という言葉に強い反応を示し「この言葉が愛おしく感じてならないんです。好きとか嫌いで括れないし、愛しているとか愛していないっていうのとも根本的に違う」と説明。さらに、「こういうとき、しょうがないって感情が一番しっくりきますよね。僕にも弟がいるので、イヤだけどしょうがないって出来事が小さいころからいっぱいありました。でも、その中に愛おしい気持ちも腹立たしい気持ちも全部含まれていますから」とほほ笑んでみせた。
同作において、「厄介」であり「しょうがない」存在に当たるのは、鶴瓶演じる鉄郎。迷惑ばかりかける弟を吟子はかばい続けるが、ある出来事をきっかけに絶縁宣言し音信不通に。消息が判明し、鉄郎が生涯に幕を閉じようとしているクライマックスに、小春との関係に変化が生じた亨も対面を果たすことになる。「ああいう局面って遠慮するのかな……と考えたときに、監督かスタッフが『そんなの一切考えなくていい。これから死ぬ人なんだから、一緒に見守る。見送る人が多いほうが幸せ』と言ってくれて、確かにそうだと吹っ切れました。あの場面では、とにかく鉄郎と小春をちゃんと見ていよう。そんな心境でした」
今回演じた大工の亨は、山田監督の知人がモデルになっているという。「男らしいし、裏表のないまっすぐな気持ちをもっている。そうありたいと思うけれど、自分に照らし合わせると、もっと屈折していますね(笑)」と話す。ガス・バン・サント監督の新作への出演が決まったほか、次回作は北野武監督の最新作「アウトレイジ」で暴力団組員を、熊切和嘉監督と再タッグを組む「海炭市叙景」でもこれまでとは違った枠組みの役どころに挑戦する。「今の自分から考えると背伸びしなくてはいけない役ですが、挑戦させてくれる機会をくれたことがとてもうれしいんです」と語る加瀬が、山田組での経験をどう消化し演技に還元していくのかに注目が集まる。