パブリック・エネミーズ : インタビュー
「ヒート」「コラテラル」など多くの傑作アクション映画を手掛けてきた巨匠マイケル・マンが伝説の銀行強盗の半生を映画化した理由とは? 史実とフィクションのバランスや、70年以上も前のストーリーをあえて全編デジタル映像で撮影した意図など、本作製作の裏側を明かしてくれた。(取材・文:猿渡由紀)
マイケル・マン監督 インタビュー
「彼は銀行強盗だが、美徳や勇気を持ち続けていた魅力的な人物だったんだ」
――この映画を作りたいと思った理由は?
「この映画は、僕にとって非常に特別な作品だ。もっとも僕は特別に感じるものしか作らないんだけどね。ジョン・デリンジャーは、当時、アメリカで大統領の次に有名な男だったんだよ。彼はアウトローで、伝説的ヒーローだった。彼は銀行強盗だが、美徳や勇気を持ち続けていた魅力的な人物だったんだ」
――この映画は実際に起きた話を描くものですが、どこまでが事実に忠実で、どれほどフィクションの要素が入っているのでしょうか?
「できるかぎり、史実に忠実に作ったよ。出来事をふくらませたり、場所を事実と違うところに変えたような部分もあるけれど。でなければ上映時間がとてつもなく長くなってしまう。あるいは歴史番組みたいになってしまうだろう。だが、まさにそれが起こった場所で撮ったシーンも多い。クラウン・ポイントの刑務所のシーンも、同じ場所で撮った。74年に閉鎖されてから放置されていたのを、僕らが再建したんだよ。デリンジャーが死ぬ場所もそうだ。彼は、映画に出てくるあの場所で死んだ」
――シカゴという街に、あなたは思い入れがあるようですね?
「僕にとっては近所だからね。僕はあそこで育ったんだよ。もちろん30年代に育ってはいないけど。僕は43年生まれだからね。でも、29年から39年くらいまでは大恐慌、その後46年までは戦争のせいで、シカゴには新しい建物ができなかった。だから、街の風景は30年代初めからほとんど変わっていないんだ。この物語の舞台となる33年、僕の母は17歳だった。そんなことも思うと、僕はその当時のシカゴに、とても強いものを感じる」
――あなたはこの映画をフィルムではなくデジタルで撮っています。その理由は?
「僕はまず、フィルムとデジタルの両方を試してみた。雨の日のロサンゼルスで、黒い車と人を撮ってみたんだ。フィルムのほうは、古い映画みたいに見えた。まるで過去の話を見ているみたいに。でもデジタルのほうは、きょう起こったことのように見えたんだ。僕は、それを求めていた。これを手がけると決めた時、僕は、この話を自分はどんなふうに語りたいのかと自問自答した。そして、観客を、まっただなかに連れて行きたいという答を出したんだ。外から、他人事のように見るのではなく、内側から感じてほしかったんだよ。デジタルを使うことで、見る人は、自分も33年にいるように感じるはずだ」
――ビジュアル面で、参考にした映画や絵画はありますか?
「ほとんど自分で創造したが、いくつかエドワード・ホッパーからインスピレーションを得た部分もある。画面を分割して、それぞれの部分で違うことが起こっているようなシーンがそれだ。オマージュを捧げた、と言えば聞こえがいいけれど、真似した、と言ったほうが真実に近いね(笑)」