パブリック・エネミーズ : インタビュー
1930年代前半の大恐慌時代、当時の国家権力から全米初の「社会の敵ナンバーワン」に認定されながら、「汚れた金しか奪わない」「仲間は決して裏切らない」「愛した女は最後まで守る」という独自の美学を貫き、庶民からロックスターのようにもてはやされた伝説の銀行強盗ジョン・デリンジャー。そのデリンジャーの激烈な半生を「ヒート」「インサイダー」「マイアミ・バイス」で知られる巨匠マイケル・マンが映画化した「パブリック・エネミーズ」が、ついに日本公開を迎える。デリンジャーに扮したジョニー・デップ、デリンジャーの宿敵メルビン・パービス役のクリスチャン・ベール、そしてマン監督のインタビューをお届け。(取材・文:猿渡由紀)
ジョニー・デップ インタビュー
「9歳か10歳の頃から、僕はデリンジャーにすごくあこがれていた」
――あなたは子供の頃からジョン・デリンジャーに魅了されていたそうですね?
「そうなんだ。9歳か10歳の頃から、僕は彼にすごくあこがれていた。なぜかと聞かれてもわからないけれどね。チャーリー・チャップリンやバスター・キートンなど、僕にとってのアイドルはほかにもいたけれど、ジョン・デリンジャーも間違いなくそのひとりだった。だから、彼についてはいろいろ読んでいて、よく知っていたよ」
――この映画をやることになって、どんな役作りをしたのですか?
「彼についてあらためて大量のリサーチをした。実在の人物を演じる上でやるべきことは、その人についてできるかぎりの情報を集め、吸収することだからね。ある段階で、それらを全部手放さなければいけなくなるんだけど。今回、最大のひらめきは、彼が育った場所が僕の祖父のいた場所とほとんど同じだと気づいた時に訪れた。デリンジャーはインディアナ州に生まれ、ケンタッキー州のオーウェンズボロで育った。オハイオ川の向こう側だ。僕の祖父も、1933年頃、同じような場所にいたんだよ。それに祖父も、何か問題があれば自分で出て行って解決するような男だった。だから、撮影中は、よく祖父のことを思ったね」
――ジョン・デリンジャーは連続銀行強盗犯ですが、悪人ではなかったと、あなたは信じますか?
「もしも、ジョン・デリンジャーになるか、J・エドガー・フーバー(デリンジャー逮捕に執念を燃やしたFBIの前身DOIの長官)になるかどちらかを選べと言われたら、僕は迷いもなくデリンジャーを選ぶね。フーバーは、とてつもなく危険な男だった。デリンジャーは、僕らと同じ。自分の人生をできる範囲で良くしたいと願っていただけ。腐った環境を与えられたが、その中で最善を尽くそうとしていたんだ」
――この映画のシーンの多くは、実際にそれらの出来事が起きた、同じ場所で撮影されました。それは、演じる上でプラスになりましたか?
「素晴らしかったよ。それが実現したのも、すべてマイケル・マン監督のおかげ。彼は史実とディテールに非常にこだわる人なので、重要なシーンをスタジオ内に建設されたセットで撮影するようなことは、どうしても避けたかったんだ。そのために多くの努力を尽くしてくれた。もし、スタジオで撮影していたら、この映画はやや薄まった感じがするものになっていただろうと思う」
――共演のクリスチャン・ベールとは、子供の話をよくしたということですが。
「僕らはどちらもおしゃべりなタイプではないので、話題はよく『君の家族はどうしている? お子さんは?』ということになったのさ。僕が見るからに、彼はすばらしい父親だ。そして、それこそ男が最も望むべきもの。もちろん彼は俳優としても優れている。人としてもね」