ベンジャミン・バトン 数奇な人生 : インタビュー
ブラッド・ピットとは、出世作「セブン」「ファイト・クラブ」につづいて3度目のコンビとなるデビッド・フィンチャー監督。上記2作以外にも「ゲーム」「パニック・ルーム」「ゾディアック」といったダークな犯罪映画で知られるフィンチャー監督が、奇妙な人生を綴った本作に惹かれた理由とは? PRのために来日した監督を直撃した。(取材・文:編集部)
デビッド・フィンチャー監督インタビュー
「この映画でも今まで通り結構な数の死体が出てくるよ(笑)」
──本作は、F・スコット・フィッツジェラルドの短編が原作でした。今まで多くの犯罪映画を手掛けてきた監督が、このストーリーに惹かれたのはどんなところなのですか?
「まあ、この映画でも今まで通り結構な数の死体が出てくるんだけど(笑)、生と死についてのメディテーション、そしてすごいラブストーリーがあるってことだよね。原作については正直あまりわからない。なぜなら僕が読んだのはエリック・ロスの脚本で、僕らが映画を作り始める直前、05年くらいまで原作は読んだことが無かったんだ」
──そのエリック・ロスが脚本を書いた「フォレスト・ガンプ/一期一会」と本作は、ともにアメリカ南部を基点に主人公が各地を飛び回る年代記でした。
「うーん。たしかにそうだけど、元々この『ベンジャミン・バトン』はニューオーリンズではなくて、東海岸のボルチモアが基点の話だったんだ。だから、ボルチモアで撮ろうと思ってたんだけど、中々いい感じの古い街並みが見つからなくてね。それで、ニューオーリンズに戻ったら、1920年代を思い起こさせる古くて美しい街並みがたくさんあって、気に入ってしまったんだ(笑)。結局ハリケーン・カトリーナのあとの7カ月をニューオーリンズで過ごしたわけだけど、あそこより他に完璧な場所は無かったと思う。エキストラのみんなもすごく協力的だったしね」
──本作にはどのように関わることになったのですか?
「最初にこの映画の話を聞いたのは、1991年から92年頃。そのときはスティーブン・スピルバーグが映画化権を持っていてトム・クルーズ主演で撮るという話だったんだ。その後、スピルバーグとトムの話は消えて、僕の友達のスパイク・ジョーンズが監督をやるっていう話を聞いた。でもスパイクも結局は監督を引き受けずに企画から去っていった。そのあとにエリック・ロスが入ってシナリオをリライトして、それを読んで気に入った僕が入ることになったんだ。エリックのシナリオは素晴らしかったからね。それで、エリックとプロデューサーのフランク・マーシャル&キャスリーン・ケネディ夫妻と僕の4人でどう撮るかについて話し合いを始めたんだ」
──そのときに話し合った主な内容は?
「エイジング──いかに年をとるか、ということだよ。だけど、僕は特殊効果、ビジュアル・エフェクト出身だから、彼らに心配しなくていいと言ったんだ。彼らも画期的な特殊効果のある映画にたくさん関わっているから、信頼してくれたよ」
──「ゾディアック」も2時間32分と長尺でしたが、今回はさらに15分長い2時間47分でした。最近は意識的に長尺の映画を撮っているのですか?
「次は3時間を超える映画を目指すよ(笑)。というのは冗談として、この映画は男の一生をまるごと描いているから、やっぱり必然的に長くなる。エリックの書いたシナリオは204ページくらいあって、普通に撮ったら3時間24分の映画になるんだけど、これを2時間47分にしたんだから、僕らにしてみれば、最短時間に縮めたようなものなんだ。別に意識的に長くしようといているわけでもないんだよ」
──本作を見ている間、ベンジャミンが老人のとき(=小さいとき)は、スローで時間が長く感じられ、大人になっていくごとに、テンポが早くなっていったように感じられましたが、それは意図的に演出したのですか?
「10歳の子供が感じる1日の長さは45歳の人間が感じる1日の長さと違うといったような“感じ方”の違いについてだよね。もちろん言っていることはよく分かるけど、意図的にやったわけではないんだ。エンディングなんかは念入りに仕上げたシーンがあったんだけど、最終的にはカットして、最も簡潔なものを選んだんだよ」
──ブラッド・ピットとは3度目のコンビですが、やはりドン・シーゲル&クリント・イーストウッド、マーティン・スコセッシ&ロバート・デ・ニーロのような関係を意識していますか?
「ブラッドはあんまり働かないからね(笑)。彼がたくさん仕事をする気になれば、これからいくらでも一緒に映画を作れると思うけど、どうなるだろうねえ」