トイ・ストーリー3 : インタビュー
全米公開3週目の段階でピクサー史上最高のヒット作になると言われている「トイ・ストーリー3」。同作の製作において、アート・ディレクターを務めたのが日本人の堤大介氏。インタビュアーの小西未来氏の幼なじみでもある堤氏に、「トイ・ストーリー3」製作の裏側を語ってもらった。(取材・文:小西未来)
アート・ディレクター堤大介氏 インタビュー
「ありきたりの映像表現ではなくて、コントラストを大きくつけました」
――どういうきっかけで、ピクサーで働くことになったんですか?
「もともと『アイス・エイジ』などを製作しているブルースカイというスタジオで7年ほどコンセプトアートを担当していたんです。実はピクサーから3度ほどお誘いがあったんですが、ブルースカイでやらせてもらっている役職より下の立場だったので、お断りしていました。ピクサーが素晴らしいアニメーション会社であることは知っていましたけれど、自分にとってはやり甲斐のある仕事のほうが大事でして。でも、ある日、ぼくのウェブサイトを通じて、リー・アンクリッチ監督が声をかけてくれたんです。“『トイ・ストーリー3』の照明を君に任せたい”と」
――監督から直接アプローチされたんですね。「トイ・ストーリー3」においてアート・ディレクターを担当されていますが、他にアート・ディレクターは何人いるのですか?
「プロダクション・デザイナーの下に、4人のアート・ディレクターがいます。キャラクター担当とシェーディング担当、セット担当がいて、ぼくは色彩と照明の担当です。ぼくの仕事は、主にカラースクリプトです。光と色を使って、どうやって物語を伝えるかというロードマップ作りですね」
――最大の挑戦はなんでしたか?
「『トイ・ストーリー』らしさを維持したまま、いかにルックを向上させられるかという点ですね。前2作には関わっていないので、雰囲気を壊さないように気を使いました。その一方で、ありきたりの映像表現ではなくて、コントラストを大きくつけようとしました。楽しいところはこれまで通りハッピーにしつつ、怖いところは思いっきり怖く、というように。これまでは子供向けということでこうした表現は抑えられていたようなのですが、リーが支援してくれたおかげで、かなりコントラストがついていると思います」
――とくにクライマックスの絶望的な恐怖と、エンディングの暖かな雰囲気との対比が素晴らしいですよね。
「ええ。気づいてもらえたかどうかは分からないのですが、ボニーという女の子が登場する場面では、必ず木漏れ日を使っているんですよ。彼女が木々に守られているかのような雰囲気を出したくて。だから、おもちゃたちも彼女の近くにいると安心するんです。これは、ぼくから提案させてもらったアイデアなんです」
――それにしても、ストーリーがよく出来ていますよね。
「普通のアニメの場合、製作していくうちにストーリーがどんどん変わっていくものなんです。でも、ぼくがピクサーに来て、ストーリーボードの状態で初めて映画を見せてもらったときから、この物語が完成していたんです。『さすがピクサーは違う!』って感激しましたよ。もっとも、あとになって、『トイ・ストーリー3』はピクサーでも例外的な作品だって知らされたんですが(笑)」
――(笑)。
「これだけの物語が出来たのは、やっぱり、リー・アンクリッチ監督と、脚本家のマイケル・アーントという2人の功績だと思います。こんなに才能のある人たちと仕事をさせてもらえたことは、ぼくのキャリアの宝物になると思いますね」
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