アイアンマン : 映画評論・批評
2008年9月16日更新
2008年9月27日より日劇3ほかにてロードショー
大人のエンターテインメントとしてほぼ完璧
べトナム戦争の頃に描かれた善悪二元論の原作コミックの舞台を、現代中東に置き換え、いくら非情なテロリストを登場させても、正義の名の下にアメリカが行ってきた事実が暴かれた今となっては、成立しないのではないかと思っていた。しかし、練られた脚本と自堕落なダウニー・Jr.のキャラが相俟って、意外な、時のヒーローが飛び出した。
若き発明家にして軍需産業のトップが、アフガンで武装勢力に襲撃され囚われる。捕虜生活の間にパワードスーツを造り上げ、命からがら大脱走。敵への復讐心が芽ばえ、テロとの戦いに邁進するのではない。自社の兵器で同胞が殺される現実を目の当たりにした若社長は、「無責任なシステムの一部」であることを自覚し、兵器製造の中止を宣言する。そして個人的に正義を実践していくのだが、本当の敵の正体は、経済のために戦争さえも捏造されるアメリカの裏側を射抜くような存在なのだ。
とはいえ、「ダークナイト」のような深刻さはなく、コメディセンスとエロスもしたたかで、秘書パルトロウとは唇すら交わさない粋なロマンス。大人のエンターテインメントとしてほぼ完璧で、メカのバージョンアップのプロセスではSF少年の目を釘付けにし、「トランスフォーマー」以上にロボットアニメ世代のツボを刺激する正統派バトルも用意する。バットマンの装備がヘビーな武具だとすれば、こちらはガチな兵器だが、人型ウェポンの活躍は、スーパーヒーローの存在を信じる心を十分に甦らせてくれる。
(清水節)