ICHI : インタビュー
「ピンポン」以来となる曽利監督との再タッグで、綾瀬はるか扮する市の宿敵となる野党・万鬼を演じた中村獅童にインタビュー。俳優として映画、ドラマ、舞台と幅広く、さまざまなジャンルで活躍する中村だが、このインタビューでは、歌舞伎役者として時代劇というものに対する強いこだわりを垣間見せた。(取材・文:編集部)
中村獅童 インタビュー
「歌舞伎や時代劇を伝えていくことは、自分の使命でもあると思う」
中村が演じた万鬼(ばんき)は、かつては幕府の剣術指南役を務めるほどの剣豪だったが、顔に醜い傷を負ったがために世間から怪物扱いされるようになってしまった男。人を憎み、野党集団を率いて悪事を働く彼は、市に自分と同じ暗い過去を感じ取り、彼女を仲間に引き入れようとするのだが……。
――綾瀬はるかさんとの初共演はいかがでしたか?
「敵同士の役だし、忙しかったのであまり話せなかったんですが、殺陣はかなり一生懸命やっていたと思います。相手が女性なので、僕も最初はちょっと気を使ってしまっていたところがあるんですが、監督に『思い切ってやってほしい』と言われたので、やってみたら僕の剣が彼女に当たってしまって……。彼女の指のところを切ってしまいましたが、それでもすぐに撮影に戻られたので役者魂を感じましたね」
――演じられた万鬼というキャラクターについて、どのように役作りしましたか?
「監督とは最初に、悪役だけどどこか孤独感や寂しさみたいなのを出していきたいという話をさせていただきました。顔に傷を負い、化け物扱いされて、世の中に対して真正面を向いて生きていけない寂しさだったり、悲しさだったり、それゆえに悪になっていってしまう人間の切なさみたいものを大切にして演じました」
――「ピンポン」以来の曽利監督との仕事はいかがでしたか?
「楽しかったですし、そもそも今回は曽利監督だからやらせていただいたという部分もあります。『ピンポン』は自分の転機ともなった作品で、お世話になりましたし、何らかの形で微力ながらも力になれたらうれしいという気持ちがあったので。あとは時代劇だからやりたいというのもありました」
――やはり時代劇には思い入れがあるのでしょうか?
「現代劇ももちろん好きですけど、もともと時代劇は大好きです。そもそも自分は歌舞伎役者なので、歌舞伎や時代劇というものは、今の若い人たちが見るようにならないと滅びてしまう。それを伝えていくというのは、自分の使命みたいなところがあると思っています」
――時代劇の有名なキャラクターで好きなものはありますか? 以前、TVドラマで「丹下左膳」を演じていましたが。
「『丹下左膳』もそうですが、『子連れ狼』や『座頭市』のような、どこかコミック的要素がある時代劇は好きですね。でもそれだけじゃなくて、時代劇って役柄がすごく幅広い。実在した武将のような役もあれば、こうした架空の役もある。その全てが魅力的だと思ってます」
――「SPIRIT」「硫黄島からの手紙」、そして「レッドクリフ」と、ここ数年で海外の作品を経験して感じたことはありますか?
「やはり時代劇の大切さを再認識します。『レッドクリフ』は中国の時代劇ですが、それが世界中で上映されるわけですよね。それで僕は日本人だから、日本に何があるかといえば、やっぱり時代劇なわけで、海外へ行けば行くほど時代劇への思いは強くなるような気がします」
――海外で日本との現場の違いを感じるところはありますか?
「やはり撮影の規模ですね。ただ、基本的にものを作る、ひとつのゴールに向かってみんなで作り上げていくというのは、どこの国でも一緒だと思います」