「映画史上最高速バトルの興奮!に水を差す慈悲の薄さ」マン・オブ・スティール 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
映画史上最高速バトルの興奮!に水を差す慈悲の薄さ
ザック・スナイダー監督、クリストファー&ジョナサン・
ローラン脚本というなんだか重そうな(笑)布陣で制作された
『スーパーマン』リブート作。
もう何を置いても凄いのは、
後半をめいっぱい使って繰り広げられる超高速バトル!!
初めの2対1の格闘戦の時点で弾丸より早い速度での立ち回り。
ラストを飾るゾッド将軍との一騎討ちなんて、開いた口が
塞がらないほどの途方も無いスピード&スケールだ。
パンチ一発で1㎞くらい吹っ飛ぶ(爆)。ビルをぶっ飛ばし、
宇宙まで飛び出し、衛星を叩き落とすド迫力バトルは、
冗談抜きで目にも止まらぬ速さ。
ぶっちぎりで、映画史上最高速の格闘戦だ。
(『ドラゴンボール』実写化もこれでリブートしてください……)
一番心を打たれたのは主人公の未来を案じる親達の姿。
異星の親も、地球の親も、自分たちが死ぬその瞬間まで
息子の未来を何よりも案じていた。
僕は人の親ではないけれど、我が子を愛する人なら
誰だってこんな心配をするものだと思う。
『果たしてこの子は世界に受け入れられるだろうか?
人々に疎外され、孤独に打ちひしがれることが無いだろうか?』
最後の最後まで我が子の将来を案じ、『ここで死ぬのも運命』と
言わんばかりの穏やかな表情で死んでいった父。
元から涙腺の弱い自分だが、僕はここでボロボロ泣いてしまった。
なので、
アクションシーンと親の心情といった部分については
文句なしに気に入っていて、ここだけなら5.0判定でも良い。
だが……その気持ちにブレーキを掛ける要素も本作には多いのよ。
まず主人公の葛藤。
力を発揮できないというジレンマについてはまだ分かる。
けど、宇宙船を見つけて実の父親から“使命”を伝えられた後、
その役目をあまりにアッサリ受け入れる流れに違和感を感じた。
いくらスーパーパワーの持ち主でも、“人々を導け”みたいな事を
言われたら、少しはプレッシャーを感じそうな気がするんだけど。
それとヒロイン。
エイミー・アダムスは好きだし良い女優さんだと思うが、
若い野心家の新聞記者という役には向いていないと思う。
落ち着いた感じの彼女より、もっと未熟そうで鋭い感じの
女優さんを起用するべきだったんじゃないかな。
共感されにくいキャラになってしまったのも、彼女自身の演技力
云々というより、ヒロインびいきが過ぎる脚本が不味い気がする。
何より引っかかるのが、“人死に”の多さだ。
戦う事しかできない哀れなゾッド将軍は仕方ないにせよ、
クリプト人の赤ん坊までも完全に壊滅させてしまったのは怖い。
あとクライマックスでの大都市破壊。
そりゃあんな強力な攻撃を受ければ人が死ぬのは避けられない
だろうけど、せめて住人の避難作戦みたいな描写を見せるとか、
主人公の周辺の人(新聞社の人々)以外が助かる所を映すくらいは
して良かったんじゃない?
“ワールドエンジン”も、どちらか片方を止めれば良かったのなら、
市街地に近い方を優先して止めるべきだったと思う。
それに最後も、わざわざ市街で格闘する理由は薄いよね。
勿論、画的にはそちらの方が遥かに盛り上がる訳だが、
3.11がまだ記憶に新しい身としては、今ひとつ乗り切れないのも事実。
本国の方でも、9.11を彷彿とさせるビル倒壊描写に拒絶反応を
示す人はいたのではと思う。
そもそもスナイダー監督は昔からあまりそういうのを気にする方
じゃないのかも知れない。アクション演出に関しては間違いなく
トップレベルの方だと思うのだが、
『300』でも『エンジェルウォーズ』でも、物語に必要とみたら
割とあっさり人を死なせる感じだったのを覚えている。
『物語を語る為なら映画内でいくら人を死なせても構わない』
みたいな慈悲の薄い姿勢を感じるので、個人的には
実はイマイチ好きじゃない監督さんだったりする。
以上!
欠点を除けばこれまでのアクション映画を凌駕する部分も
多いので5.0~6.0判定でも良いくらいなのだが、
上記の不満点が占めるウェイトもかなり大きいので、
総合的には4.0判定といったところ。
アクションそのままでもう少し登場人物へのシンパシーを
感じさせる内容になるのなら、続編にはかなり期待して良いかも。
〈2013.08.31鑑賞〉