007 慰めの報酬 : インタビュー
「チョコレート」「ネバーランド」「君のためなら千回でも」と、これまでヒューマンドラマで高い評価を得てきたマーク・フォースター監督が、「007」で初のアクション大作に挑戦した。その心境はどのようなものだったのだろうか? 来日した監督を直撃し、話を聞いた。(取材・文:編集部)
マーク・フォースター監督 インタビュー
「自分が映画館で見たいと思うボンド映画を作ろうと思った」
――伝統ある「007」の監督のオファーがきた時の気持ちはいかがでしたか?
「最初は電話番号を間違っているんじゃないかと思ったよ(笑)。どうしようか、かなり躊躇して、1カ月以上悩んだ。最終的に引き受けた理由はいろいろあるが、一番大きかったのはダニエル・クレイグと会ってインスピレーションを受け、ぜひ彼と一緒に映画を作りたいと思ったからなんだ」
――プロデューサーからはどのような希望や要望を伝えられましたか?
「最初はもっと対立があると思ったんだけど、全然なくてね。プロデューサーは私がやりたいように作らせてくれた」
――脚本はオファーを受けたときに完成していたのでしょうか?
「いや、まだ未完成だった。そこで、前作を仕上げたポール・ハギスを連れてくるように頼み、彼と一緒に仕上げていくことにした。また、同時に私がロケハンをしつつ、ロケ地を見て生まれてくるアイデアを入れこんでいった。水や石油という天然資源の話も最初はなかったんだが、ポールと話し合った過程で生まれてきて、現在のかたちになったんだ」
――監督は人間ドラマで高い評価を受けてきましたが、自分が監督するならばというところでこだわったポイントは?
「ボンド映画というフレームの中で、自分のサインが見えるような映画を作りたいと思った。自分が映画館で見たいと思うボンド映画を作ろうとね。具体的には、60年代のスタイリスティックな部分を取り入れつつ、それに対比させて現代的な部分を取り入れようと思った。また、プロットによって物語が進むのではなく、キャラクターによって進んでいくアクション映画を……つまり、観客がボンドを痛みや傷を抱える人間として感じられるような映画を作りたいと思ったんだ。大作ではあるけど、個人的にはインディペンデント映画を作るような気持ちで作っていった」
――「アクションを撮影するのは大変ではなく、考え出すのが大変だった」という発言もされていましたが、陸海空のチェイス含め、もっとも大変だったのはどこでしょう?
「おっしゃったようにアクションシーンが4大元素(火、水、土、風)を取り入れて作っているので、それぞれの大変さがあった。例えば火に関しては、俳優たちに火の中に入ってもらうので熱さという問題があるし、水上だと波や天候といった問題がある。でも、気持ちとして一番大変だったのが、イタリアのシエナで、ボンドが屋根伝いに追跡するシーンだ。もともとスタジオで撮ろうと思っていたところなんだが、セットを組む予算がなく、ロケ撮影することになって、市の撮影許可は取ったけど、クレーンの設置といった機材的な大変さもあるし、なによりダニエル本人が実際に走るので、彼の安全を絶対に確認しなければいけない。とにかく複雑な要素が絡み合ってとても苦労したシーンだね」
――今回は「My name is Bond, James Bond」というお約束のセリフがありませんでしたが……。
「実は撮影したんだけど、そのシーン自体がちょっとうまくいかなくてね。残念だけどカットせざるを得なかった。だから本編にはないけど、DVDには入るんじゃないかな」