ゼア・ウィル・ビー・ブラッド : インタビュー
1920年代のカリフォルニアを舞台に、石油採掘業者のダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)の壮絶な欲望や裏切り、心の闇を描き出した「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は、観ている者が押しつぶされそうな空気すら放つ重たい作風ながら、本年度アカデミー賞で作品賞、監督賞はじめ最多8部門にノミネートされた。そんな本作について監督のポール・トーマス・アンダーソン、そしてこの映画を文字通り体現し、その圧倒的な存在感で見事2度目のアカデミー賞主演男優賞を手にしたダニエル・デイ=ルイスに話を聞いた。(取材・文:小西未来)
ポール・トーマス・アンダーソン監督インタビュー
「ぼくはこの作品を一種のホラー映画と捉えている」
――それにしても、前作「パンチドランク・ラブ」からずいぶん時間が経っていますが、脚本執筆にそれだけ苦労したということなのでしょうか?
「うん。別の映画の脚本を書いていたんだけれど、その執筆が思ったようにはかどらなかったんだ。台詞回しとか細かな表現とか、自分が書く文章にほとほとうんざりしてしまってね。それで、あくまでも脚本執筆の訓練のために、アップトン・シンクレアの『石油!』の脚色をはじめた、というわけなんだ」
――完璧主義者として知られるダニエル・デイ=ルイスとの仕事は、怖くありませんでしたか?
「正直なところ、はじめはちょっと怖かった。ダニエルがひとつのキャラクターを演じるために行った数々のアプローチは、それこそ伝説になっているほどだから。彼がどんなことを言い出すのか、まるで読めなかったし。でも、何度か会って、打ち解けるうちに、ぼくの心配が杞憂に過ぎないとわかった。彼の演技に対するアプローチは至極真っ当なんだ。巷で面白おかしく言われているようなクレイジーなことはなにひとつない。ぼくとしては、理想の女性にようやく巡り会えたような気分だよ(笑)」
――音楽のボリュームが非常に大きいですが、これは意図的なものでしょうか?
「もちろん。ぼくが好きな映画というのは、きまって大音量で音楽が流れる場面があるから。ただ、『トランスフォーマー』のような、絶え間ない騒音とは違うよ。もっとピンポイントで、恐怖を掻き立てるようなものを狙っていた。ぼくはこの作品を一種のホラー映画と捉えているんだけど、ジョニー(・グリーンウッド)はぴったりの音楽を作ってくれたと思うよ」
――「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を21世紀版の「市民ケーン」だと絶賛する声もありますが、そうした意見をどう思いますか?
「それは、あまりにも大げさだと思う。ただ、たしかに共通点はある。『市民ケーン」』の素晴らしいところは、物語が常に下り坂だということだ。悲劇のあとに悲劇が続いて、主人公が幸せになることがない。で、そうした悲劇を見ることによって、観客はある種の達成感というか、満足感を味わうことになる。シェークスピアの悲劇もそうだけれど、主人公が不幸になることと前もってわかっている物語というのは、ときどき観客にとてつもない満足感を与えることがある。たとえば、『タイタニック』もそうだよね。映画のオープニングから、不幸なエンディングを迎えることがわかっているのに、観客は満足できる、という」