劇場公開日 2008年4月26日

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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド : 映画評論・批評

2008年4月22日更新

2008年4月26日よりシャンテシネほかにてロードショー

「歩く嵐」の抱えた巨大なダムと映画史の富に思わず眼をみはる

ダニエル・プレインビューの声を聴いた瞬間、私はノア・クロスの声を思い出した。クロスとは、「チャイナタウン」でジョン・ヒューストンが演じた魔人だ。ただ、プレインビューに扮したダニエル・デイ=ルイスは、他の影も役柄に取り込むことを忘れていない。たとえば、「グリード」のエリッヒ・フォン・シュトロハイム。あるいは、「市民ケーン」のオーソン・ウェルズ。

ああ、映画史の富だ。こう思う一方で私は、デイ=ルイスの体現する魔人が「映画の肌」を突き破ってうごめく気配に、ぞくぞくするような昂奮を覚える。図々しくいいかえれば、私はプレインビューに一方ならぬ親近感を覚える。

プレインビューは「歩く嵐」だ。彼の肉体と無意識には、深くて巨大な「感情のダム」が堰き止められている。桁外れの生命力と唾棄すべき腐れ根性を体内に共存させ、荒野と神に喧嘩を売りつづけている男。強欲で冷酷で破壊的で、なおかつ作り物ではない感情をどっと放水しつづけている男。

養子の少年や、天敵にして分身の福音伝道師イーライに鏡の役割を負わせると、プレインビューの抱えるダムの水量はさらに際立つ。燃えさかる焔も、噴出する原油も、やがて流される血も、この不吉な男が呼び出したにちがいない。ポール・トーマス・アンダーソンは、「歩く嵐」を「20世紀アメリカという嵐」のなかに放った。スペクタクルとリアリズムが激突すると、見よ、そこには映画というもうひとつの強烈な嵐が発生する。

芝山幹郎

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