ノーカントリー : インタビュー
先日行われた第80回アカデミー賞授賞式で、見事助演男優賞を受賞したハビエル・バルデム。その最悪の髪型とともに映画史上にその名を残す存在となった彼に、アメリカ映画の暴力、そして殺し屋シガーが出来るまでを語ってもらった。(取材・文:森山京子)
ハビエル・バルデム インタビュー
「彼は、暴力そのもの、邪悪そのものを目に見える形にした恐怖のシンボルなんだ」
――シガーは夢でうなされそうなほど怖い男ですが、こんなバッド・ガイを演じるというのはどんなものなんですか?
「アレックス・デラ・イグレシア監督の「ペルディータ」でも相当悪い男をやったけど、それ以来だなぁ、バッド・ガイは。でもシガーという男は、映画でよく描かれる悪役とは全然違うと思うんだ。彼は、暴力そのもの、邪悪そのものを目に見える形にしたキャラクター。恐怖のシンボルなんだ。人間として悪いヤツというのとはワケが違うんだ」
――感情とか表情もありませんよね。
「映画を見た人が、シガーにまったく感情移入できなかったと言うんだけど、当たり前だよね。ロボットみたいなものだから。与えられた使命に徹底して忠実で、ほとんど喋らないし、余計な部分がないから、時に奇妙でおかしいとすら言える。ひたすら移動し続けることで、この作品の荒涼たる風景を、彼も形作っているんだ」
――シガーのおかしさというのは、あの髪型からくるイメージもありますよね。
「まったくだ。あれはヘア・ドレッサーのポールが考えたんだ。彼のトレーラーに行って、よろしくお願いしますと言ったら、いきなりあのカツラをかぶらされて、鏡を見て唖然としたね。そのままセットに戻ったら、スタッフ全員に大受けで、大笑いだった(笑)」
――おかしいと同時に、怖さも増幅されていますよ。
「それは動きのスピードにも関係していると思う。僕は、シガーの動きをノーマル・スピードより一コマ遅い感じでやっているんだ。あの髪型で動きをのろくすると、異様さが増してより恐怖を感じるんだと思うよ。バイオレンスは権力と同じで動き出したら止められない。シガーを通してそれが描かれているのが、すごく気に入っているんだ」
――アメリカ映画の暴力というものをどう思いますか?
「暴力が溢れすぎていて抵抗がある。ヨーロッパ映画にはここまで暴力が氾濫していないよ。僕も今までに2本しか暴力的なキャラを演じていない。セクシャルな面とか、裸には何の抵抗もないし、僕の尻の穴が写っていても全く平気なんだけどね。暴力的な場面を映画の中に入れることにどのような意味があるのか。暴力について考えるきっかけになるかどうか。それが『ノーカントリー』とその他の映画との違いだと思う」
――コーエン作品は暴力の描き方も違うわけですね。
「彼らは常に、どんなことに対しても、滑稽な面を見ようとする。悲劇的なシーンであっても、それをただ悲しいと描くのではなく、人間が持っている滑稽な面も含めて悲劇を見ようとするんだ。だからシリアスな局面でも救いがある。ドアを開けておいてくれるという感じ。人間を閉じこめるんじゃなくてね。この映画で描かれる暴力と恐怖も、善し悪しにかかわらず、人間の力を超えた運命と宿命として描かれていると思うよ」
――出演作が立て続けですよね。忙しすぎて自分を見失うなんてことはないんですか?
「僕の家は曾祖父の代からの俳優稼業だからね。長い家系の中で教えられてきたセオリーがあるから大丈夫。よく考えて選び、注意深く決断するってことだよ」