ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ : 映画評論・批評

2020年8月4日更新

1984年10月6日よりロードショー

映画史に刻み込んだレオーネとモリコーネのノスタルジックな映像モニュメント

2020年7月6日、エンニオ・モリコーネが逝去した。イタリアを代表する映画音楽の巨匠である。91歳だった。「荒野の用心棒」(1964)「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」(1968)「アンタッチャブル」(1987)「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988)「海の上のピアニスト」(1998)などで、奮い立つような緊張感と重厚で風格のある印象的な楽曲から、ノスタルジックで甘く切ない、叙情的な旋律で心に残る名曲を世に送り出した。

その中でも「荒野の用心棒」の世界的大ヒットでマカロニ・ウエスタン(イタリア製西部劇)の作曲家として欠かせない存在となって以降、コンビを組み続けたセルジオ・レオーネ監督(1989年逝去)の遺作にして代表作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984)は必見だ。

同作はハリー・グレイの自伝的小説を原作に、ニューヨークのロウワー・イーストサイドを縄張りとした、ユダヤ系ギャングたちの栄光と挫折を描いた一大叙事詩。1930年代初めの禁酒法時代から幕を開け、60年代後半と20年代初めの3つの時代が交互に描かれる。ロバート・デ・ニーロジェームズ・ウッズ、エリザベス・マクガヴァンに加え、バート・ヤングジョー・ペシ、さらに少女だったジェニファー・コネリーまで錚々たる俳優たちが、構想14年、前作から10年以上の沈黙を破ったレオーネ監督の元に集結して作り上げられた。

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そして、第37回カンヌ国際映画祭でワールド・プレミア上映され激賞を得るが、なんと長尺に映画会社が難色を示し、アメリカほか多くの国では再編集短縮版(139分)で公開され、酷評されてしまう。だが、日本やヨーロッパの一部ではオリジナル版(205分)で公開されると高評価を得て、その後、監督自身による再編集完全版(229分)が公開されると、ギャング映画の傑作として一転して賞賛された(新発見の映像を加えた251分版もある)。アカデミー作曲賞6度目のノミネートにして初受賞をモリコーネにもたらした「ヘイトフル・エイト」(2015)のクエンティン・タランティーノ監督もこの作品のファンである。

カンヌも震撼させた全編を貫く凄絶なバイオレンス描写とともに、レオーネ作品の重要なモチーフである愛と友情、金と記憶、裏切りと悔恨が、二人の主人公を鏡映しにノスタルジックに描かれ、時間の長さは感じない。イタリア人監督レオーネが、憧れていたアメリカへオマージュを捧げたフィルム・ノワールだ。

光と影、クローズアップの多用と遠景を織り込んだ緻密な画面構成、フラッシュバック、長回し、さらに鏡、覗き穴、電話などを効果的に用いて登場人物の心情を表現。そして、名曲「アマポーラ」とともにモリコーネの音楽が物語を語っていると言っても過言ではない。また、当時のマンハッタンを再現した映画美術も素晴らしく、脚本、撮影、衣装など最高のスタッフで作り上げたスケールと豪華さに圧倒されるに違いない。

和田隆

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