ペパーミント・キャンディー

ALLTIME BEST

劇場公開日:

解説

韓国現代史を背景に1人の男性の20年間を描き、韓国のアカデミー賞である大鐘賞映画祭で作品賞など主要5部門に輝いた人間ドラマ。「オアシス」「シークレット・サンシャイン」のイ・チャンドン監督が1999年に手がけた長編第2作。

99年、春。仕事も家族も失い絶望の淵にいるキム・ヨンホは、旧友たちとのピクニックに場違いなスーツ姿で現れる。そこは、20年前に初恋の女性スニムと訪れた場所だった。線路の上に立ったヨンホが向かってくる電車に向かって「帰りたい!」と叫ぶと、彼の人生が巻き戻されていく。自ら崩壊させた妻ホンジャとの生活、惹かれ合いながらも結ばれなかったスニムへの愛、兵士として遭遇した光州事件。そしてヨンホの記憶の旅は、人生が最も美しく純粋だった20年前にたどり着く。

2019年、イ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版」公開にあわせて4Kレストア・デジタルリマスター版で公開。2023年の特集上映「イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K」では4Kレストア版で公開。

1999年製作/130分/R15+/韓国・日本合作
原題または英題:Peppermint Candy
配給:JAIHO
劇場公開日:2023年9月8日

その他の公開日:2000年10月21日(日本初公開)、2019年3月15日

原則として東京で一週間以上の上映が行われた場合に掲載しています。
※映画祭での上映や一部の特集、上映・特別上映、配給会社が主体ではない上映企画等で公開されたものなど掲載されない場合もあります。

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映画レビュー

4.0希望に満ちゆく物語が、私たちの心を暗転させる“逆再生の妙”

2020年5月4日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

興奮

知的

絶望の淵に立つ男が、迫りくる電車を目前に「帰りたい!」と咆哮する――まさに衝撃的、そして不可解さに満ちた場面で幕を開ける本作。7つのエピソードに分け、キム・ヨンホの20年にわたる人生が描かれていきます。

“逆走する電車”のモチーフが象徴するように、本作は「現在→過去」という手法によって紡がれていきますが、これがかなり痛切な描き方。20~40代をひとりで演じきったソル・ギョング(圧巻の芝居!)の表情には、ストーリーが進む内に“希望”が満ちていきます。しかし、これは裏を返せば、その“希望”が時間の経過によって失われていったということ。幸福を“獲得”しているはずなのに、私たちはそれらが“剥奪”されることを知っている。物語は“明るさ”を取り戻していくのに、私たちの“心”は暗転していく。「逆再生スタイル」は、他作品でも事例はありますが、何よりも演出&脚本が素晴らしいです。思わず唸ります。

また「現代→過去」という構成上、各場面で「何故こんなことをしたのか?」という疑問を抱くはず。鑑賞者はその問いを携えて、過去へ過去へと突き進んでいきます。勿論、これらの疑問の真相は、きちんと明かされます。「何気ない仕草は、この時代から来たものなのか」「このアイテムには、こういう思い出があったのか」等々。単なる伏線回収――と言ってしまえば、それまでですが、キム・ヨンホの人生を「過去→現在」で捉え直すと“時が経過しても、残っていたもの(or残ってしまったもの)”という意味合いが生まれ、妙に物悲しくなってしまうんです。

余談:キム・ヨンホの20年は、韓国現代史とともにあります。その中には「光州事件」の存在も…。近年では、この事件を題材とした「タクシー運転手 約束は海を越えて」という傑作も誕生したので、そちらも是非チェックを!

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岡田寛司(映画.com編集部)

4.0主人公と共に走馬灯を観る

2024年2月23日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

キム・ヨンホという男の人生が巻き戻されていく映画。彼の人生をぶち壊した「道連れにしたい1人」(本人は絞れないと言っているが)は一体誰なのか。彼の20年分の走馬灯を共に観ながら考えさせられる仕掛けになっているのだが…。

彼の人生が「壊れた」のは、どの瞬間なのか…。うまくいっている様に見えるあの場面の時点で、本当はもう壊れているのではないか…。というより、そもそも彼の中に、自分の人生を選択しようという気持ちは存在していたのか…。

象徴的な「犬」の描き方と相まって、観ている内に次々と膨らんでくる疑問は、そのまま「おのれの人生はどうなのだ?」と、自分への問い返しとして跳ね返ってくる。

「自分の力が及ばない(ように感じてしまう)、社会情勢や組織や神などに対して、私は、あきらめや隷属や冷笑以外、どのような振る舞いをすればよかったというのだ!」
ファーストシーンで「帰りたい」と叫ぶ主人公の心のうちでは、そんな疑問が渦巻いていたのではと思わされる。

この後、「オアシス」や「シークレット・サンシャイン」につながるイ・チャンドンらしさの原点を見た思いだった。

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sow_miya

5.0近現代韓国史を深く知るには良い作品

2023年12月19日
PCから投稿

今年424本目(合計1,074本目/今月(2023年12月度)25本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))

 本作品も見たくて、日替わりで復刻上映されているミニシアターまで行ってきました。

 1999年だったか2000年だったかを「出発点」として、主人公視線で時代が「逆戻り」していく中で、現代(韓国史(1948~))の陽の部分と陰の部分とに視線があたります。

 映画の趣旨としてどうしても、「当時の作品」であるために、1980年のパートの事件が何であるかは明記されませんが、描写から見て明らかに「光州事件」です。韓国映画は日本でも人気ですが、1948年以降の韓国の一部の歴史について「あえて触れない」フシがあるのは2023年「現在」においてもそうで(実際、2023年の映画でも光州事件を想定できるが「フィクションのお話です」と出ていた等)、この点いわば、「スープとイデオロギー」のように「日本に住む当事者からの立場」から描かれることが多いです(ただし後述)。

 ただこの点、映画の作成時期を考えると、当時の韓国では完全な表現の自由は報道されていなかったのは事実で、それもそれで仕方がない、と思えます。そうした「韓国の特殊な事情」まで考えると本映画は精一杯の努力をしたといえ、減点なしの扱いにしています。

 なお、映画そのものがフィクションのお話ですが(光州事件が想定できる描写もあくまでも何も固有名詞等出てこない)、1948年の韓国の成立以降の韓国の主要なクーデターほか色々なことを知っていると理解度がかなりあがります。

 採点に関してはそうした点が気になるものの光州事件を固有名詞をもって描けなかった点に関しては仕方がないと思うし減点なしの扱いです。

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 (参考/減点なし/韓国(大韓民国)の成立とそのあとのできごと)

 韓国成立は1948年8月15日です。これと同じくして済州島4.3事件がおきましたが、「事件の勃発時点では」アメリカ対共産主義の戦いで韓国軍は関与していません(途中から関与するようになります)。少なくとも「最初から関与している」と考えるのは誤りです(最近何かと韓国に対するヘイトが大きいものの、歴史は歴史として正しく認識する必要がある)。

 一方、同じく迫害事件として1948年10月19日の「麗水・順天事件」は明確に韓国軍のみの関与です(アメリカは関与していない)。この2つの事件はどちらも、命からがら日本に逃れる人が出てくるようになった事件ですが、「かかわった勢力が異なる」という明確な違いがあるので注意が必要です。

 なお、朝鮮戦争以降から現在(2023年以降)に関しては、特段の事情がない限り韓国としての意思決定になります(朝鮮戦争勃発時~休戦協定まで一時期韓国のコントロールがきかず、アメリカがかかわっていたものは除く)。換言すれば「何でも韓国のせいにすればよいのではない」ので注意が必要です(特に済州島4.3事件に関しては「韓国軍は途中からかかわった」のであり、4.3の時点で韓国という国が存在していない点に注意です。

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yukispica

4.020年の時を経たピクニック

2023年11月22日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

<映画のことば>
俺の人生を壊した奴は多すぎて、一人選ぶのは大変だ。

一人の青年・ヨンホをすっかりねじ曲げてしまったもの…。
それは、おそらく軍事政権下という特異な事情もあったと思うのですが、ヨンホにとっては人間的な自然な情愛の通じがたかったであろう軍隊での生活(人間関係)や、その後にヨンホが身を転じた、およそ法の執行機関と呼ぶに値しないほど腐敗しきった警察組織とであったことは、疑いのないことと思います。評論子は。

もともとは、花を愛でる気持ちを持ち、草花の写真を撮ることを夢にみていた一人の純真な青年が、ねじ曲げられ、完膚なきほどにまで人格を破壊され、ここまで荒(すさ)んで無軌道にすらなってきたプロセスが、何とも心に痛い一本になりました。評論子には。
そして、その変化・変遷は、20年前と、20年後との2回のピクニックに、端的に象徴されるのでしょう。

映画作品としても、現在から過去に向かって、だんだんと時間軸(因果)を遡るという構成は、ヨンホの人柄が静かに、しかし確実にねじ曲げられてきた過程をありありと描くには、優れた手法であったと思います。
加えて、一見では爽やかなイメージのお菓子である邦題の意味が、しっかりと回収されるという点も、映画作品の構成として、素晴らしかったと思います。

本作は、別作品『オアシス』が素晴らしかったイ・チャンドン監督の手になる一本ということで、鑑賞することにしたものでした。
そして、その期待は、少しも裏切られなかったと言うべきでしょう。

文句なしの秀作であったと思います。

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talkie