舞踏会の手帖
解説
「シュヴァリエの流行児」「望郷(1937)」に次ぐジュリアン・デュヴィヴィエ作品で、彼自ら脚本を書卸したものである。但し台詞は「或る映画監督の一生」のアンリ・ジャンソンがジャン・サルマン及び「女だけの都」のベルナール・ジンメルの協力を得て書いている。出演者は「外人部隊(1933)」のマリー・ベル、「巨人ゴーレム(1936)」のアリ・ボール、「生けるパスカル(1936)」のピエール・ブランシャール、「女だけの都」のルイ・ジューヴェ、「南方飛行」のピエール・リシャール・ウィルム、「ミモザ館」のフランソワーズ・ロゼー、「沐浴」のフェルナンデル、我国には初紹介の名優レイミュという素晴らしい顔触れで、助演者も「シュヴァリエの流行児」のロベール・リナン、「上から下まで」のミリー・マチス、「罪と罰(1936)」のシルヴィー、「どん底」のジェナン、「生けるパスカル(1935)」のアルコヴェー、新顔のベナール等が競演している。、キャメラは「赤ちゃん」のミシェル・ケルベがアゴスチニ、レヴァンと共に担任、装置は「リリオム」のポール・コランのデザインによってセルジュ・ピメノフ及びドゥーアルニヨンが設計した。音楽は「巴里祭」「最後の億万長者」のモーリス・ジョーベールが作曲している。
1937年製作/144分/フランス
原題または英題:Un Carnet du Bal
ストーリー
秋も終わろうとする11月のイタリア、コモ湖畔に立つ宏荘な古城は霧こめて憂愁であった。クリスチーヌは年かさの夫の野辺の送りを済ませたばかりである。非常に人の良い夫ではあったが、年齢が離れすぎていた為にクリスチーヌは夫に愛を感じないでしまった。美しい若妻をいとおしむ余りか、夫は彼女に何人との交際も許さなかった。36歳の今、クリスチーヌは過ぎた20年の結婚生活に青春の悦びを味わった事のなかった淋しさを今更の様に感じるのである。夫を失ったクリスチーヌは誰ひとりの身寄りもなく、訪ねるべき友もない。が彼女はまだ若い。もう一度人生を新しく出直そう。クリスチーヌは夫の形見をすべて召使達に与え、思い出の品を炉に投げた。その中からふと取り落とした一片の手帖。それはクリスチーヌが一人前の女として初めて舞踏会に出た折の、ダンス相手の男の名を書き記したものだ。あの時の十人の若者達は、どうしているのであろう。想い出そうとしても二十年の歳月は記憶を消してしまった。否いな、ジェラールをどうして忘れ得よう。あの時は十八歳だった。金髪で、ギリシャ神話の神の様に美しかったジェラール。十六歳のクリスチーヌが秘かに愛を感じたジェラール。彼女は目を閉じた。瞼に浮かぶのは美しいシャンデリヤのもと、甘いワルツの曲に乗って、白いレースの裳も軽く、踊りに酔った20年昔の舞踏会だ。亡き夫の秘書であったブレモンに頼んで、十人の男達の住所を調べて貰うと、その二人はすでに他界していた。そして皮肉にもジェラールだけが、住所が解らない。思い立った事だ、クリスチーヌは旅装を整えた。 先ず訪れたジョルジュ・オーディエの家で、出迎えたのは母のオーディエ夫人であった。夫人は彼女と対座すると、貴女はクリスチーヌでしょう、いまはジョルジュは戻ります、是非会って、貴女の娘さんと結婚させて下さい、と言う。ジョルジュは20年前クリスチーヌの婚約を聞いた時自殺したのだ。動転した母親はその死亡通知も出さなかったので、クリスチーヌも今初めて知ったのだ。狂気の母は彼女を追い出した。 次はキャバレエの経営者となっているピエール・ヴェルディエだ。今はジョウと名も変わって、夜盗団の采配を振る前科者だ。ヴェルレーヌの詩を誦した昔日の面影はすでに失せている。それでも昔話に夜の更けるのも忘れたが、踏み込んで来た官憲にジョーは曳かれて行った。 ピアニストのアラン・レニョオルを訪ねると、今は神父ドミニックであった。児童聖歌隊に讚美歌を教えている老僧も、かつてはクリスチーヌを想って死のうとした事もあった、と聞いて彼女の心はまた痛むのだ。 次にアルプスに登ってエリック・イレヴァンに会った。詩人を志した彼はいま山案内人である。昔を語り合って、二人の心は溶け合った。彼とならば新生をともに出来ようか。しかしエリックは雪崩の警鐘を聞くと彼女を捨てて義務へ走った。 南フランス海岸の田舎町には、政治家志望だったフランソワ・パテュセが町長をしている。彼女が訪れた日、彼は女中を後妻に迎える結婚式に忙しかった。 マルセイユで医師チェリーを訪れたが、彼は既に反狂乱の廃疾者だった。 彼女は生まれ故郷で理髪師になっているファビアンと、日曜の夜の舞踏会へ出て見た。それは彼女が瞼に描く舞踏会とは似もやらぬ侘びしい田舎びたものだった。 幻滅と共に帰った彼女はジェラールが湖の対岸に住むと初めて知り訪れると彼は一週間前に死んでいた。彼女はその忘れ形見ジャックを養子に迎えた。何か母性愛に似た愛情を抱いて。
スタッフ・キャスト
- 監督
- ジュリアン・デュビビエ
- 脚色
- ジュリアン・デュビビエ
- 台詞
- アンリ・ジャンソン
- ジャン・サルマン
- ベルナール・ジンメル
- 製作
- ジャン・レヴィ=ストロース
- 撮影
- ミシェル・ケルベ
- アゴスチニ
- レヴァン
- 美術
- ポール・コラン
- セルジュ・ピメノフ
- ドゥーアルニヨン
- 音楽
- モーリス・ジョーベール
- 助監督
- シャルル・ドラ
受賞歴
第5回 ベネチア国際映画祭(1937年)
受賞
最優秀外国映画賞 | ジュリアン・デュビビエ |
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