野いちご
劇場公開日:2018年7月21日
解説
スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンが、ひとりの老人の1日を通して人生のむなしさや孤独をつづり、ベルリン国際映画祭金熊賞をはじめ数々の映画賞に輝いた傑作ドラマ。名誉博士号を授与されることになった老教授が車で授与式場へと向かう道のりを、老教授の回想や悪夢を織り交ぜながら描いていく。老教授を演じるのはサイレント期の名監督として知られるビクトル・シェストレムで、本作が遺作となった。2013年、デジタルリマスター版でリバイバル公開。2018年の「ベルイマン生誕100年映画祭」(18年7月~、YEBISU GARDEN CINEMAほか)でもリバイバル上映。
1957年製作/89分/スウェーデン
原題:Smultronstallet
配給:ザジフィルムズ、マジックアワー
日本初公開:1962年11月
スタッフ・キャスト
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2022年7月27日
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鑑賞方法:DVD/BD
何が彼をそーさせたのか、孤独で静かに頑迷だった親父の晩節が描かれている。夢は逃避の象徴として扱われることが多いですが、その逃避の夢が現実を変えるキッカケになり、ラストシーンでみる夢の慰めも深まる。
義理の娘は東京物語の原節子か。誰にでも女神はいる。
2021年4月17日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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たった1日の些細な出来事たちが、ある1人の老人を成長させた。人はいつでも成長できる。生涯発達という考え方に則れば、精神の成長は、死ぬまで続く。そのきっかけさえあれば。素直で活発な若い男女3人に会ったり、見るからに険悪でこうはなりたくないと思わせるような不仲な夫婦に会ったりすることで動いたイーサクの心は、彼を少しだけ、成長させた。
今日あったことそれぞれは偶然なんかじゃなく、なにかしらの必然性があったんだと感じ、忘れないように書き留めておこう、とイーサクが感じているということが、すごく前向きで好きだなーと感じた。そして僕も、この映画を見てすごく感動したということが、きっと僕を成長させてくれるだろうと感じている。
黒澤明の「生きる」の上位互換って感じがした。「生きる」は、ちよっと説教臭く感じてしまってあんまり好みじゃなかったけど、「野いちご」は本当に好き。若い男女3人のシーンなんて、すごく楽しいシーンだったし。特に最後の部屋を見上げて歌ってるシーンは、イーサクの笑顔も含めてほんとに好き。
共感できれば良いってもんでもないとは思うけど、やっぱり強く共感した映画は、感動しやすい。「野いちご」は、精神的な未熟さの部分に共感した。「僕のヒーローアカデミア」で精神的に未熟である成人を子ども大人と呼んでいたことと、この映画における自己欺瞞の中に生きている人に対する生きる屍って言葉が、少しだけ重なったりもした。
イーサクが受ける孤独という罰や、悩みや不安から目を逸らし、逃げ続けるという姿勢は、すごく共感しながら見た。僕の場合は、悩みと不安と、あと理想からもなのだけど。この、理想から目を逸らすというのが結構つらくて、それはいつも自己欺瞞につながる。自己欺瞞ほど生きる上でつらいこともないだろう。それはわかっているのだけど、理想を見続けることは、あまりにも苦しい。中村文則の「掏摸」における主人公や死んだ元恋人のように、理想のメタファーである大きく美しい塔の幻影に憧れ続けながらも、そこに自分はたどり着けないと確信しているのだ。ならいっそ目を逸らして、そんな理想ははなから持っていなかったと自分を納得させようとしてしまう。だけど、この映画を見て、少しだけでいいから、自分の理想や希望、それから悩みや不安にも、しっかり目を向けてみようと思えた。本当の自分を偽って生きるのは、やっぱり悲しい。
老いや、死、ということに関しては、あまり共感できなかった。今21歳で見る「野いちご」と、例えば20年後の41歳になって見る「野いちご」は、絶対違う映画になっているだろう。それが今からとても楽しみだ。きっとその時僕は、もっとベルイマンや「野いちご」を好きになれるはずだ。
2021年3月22日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
旅の途中の回想シーンはイーサクの人生の中でも辛いものばかり。弟に取られたサーラ。妻と男との密会。医師の試験まで受けさせられ、有罪判決を受けるというわけのわからない夢まで見てしまうのだ。
そんな嫌な記憶はあれど、三人の若者が純粋で楽しい。なぜだかその対比がイサークの人生の苦楽を象徴していて、生きる勇気をも与えてくれそうな雰囲気。一方、同じく医師である彼の息子も38歳という若さで死について考え込む性格らしい。嫁とも上手くいっていないことがイサークの気になるところだ。
たった1日の間に辛いこと、楽しいことをいっぱい経験した。若者たちが別れ際に歌を歌ってくれたのもうれしい。これが生きている喜び。就寝時には青春時代の楽しい思い出を夢に見る。
2020年11月15日
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鑑賞方法:DVD/BD
ベルイマン監督の人の心の描き方は本当に凄い。味わい深い、奥深い、ナチュラル、自然体、リアル。人間が超現実的に描かれている。小津監督にしてもベルイマン監督にしても昔の巨匠と呼ばれる映画監督達の心理描写は神がかりだ。達観している。物質主義が度を超える前の適度に物事が少なかった時代は映画も精神的な部分により深く傾倒していた。現代の主流映画のような多彩なエンターテイメント性の代わりに、よりシンプルで明確で確実に物事の核心に迫った内容に触れることが出来る。映画作家であり哲学者であり心理学者であり人生学者。そういう気質の達観者達が映像芸術という手段で世に寄与しているイメージ。その核心に迫った内容は物質主義が肥大化した現代の様々な物事が入り乱れた混沌の中ではより明確で光って見える。先日観た「ペルソナ」に続いてまたまたユングの理論(本作は共時性)が登場。ベルイマン監督はユングの心理学に傾倒していた模様。