スウォーズマン 女神復活の章

劇場公開日:1995年1月14日

解説

本来、『スウォーズマン』(90、映画祭上映のみ)の続編として作られた「スウォーズマン 女神復活の章」(93)が予想外の大成功を収めたため、急遽、ブリジット・リン演じるキャラクターをフィーチャーした“東方不敗”シリーズの第2作として製作された伝奇アクション。前作同様、ワイヤーワークをはじめとするSFXを駆使した、荒唐無稽ながらパワフルな作風が見どころで、香港では東方不敗と新たな登場人物・スノーとのレズビアン描写も話題となった。監督は前2作に引き続き「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」3部作のチン・シュウタンと、「スウォーズマン」にも共同監督で参加したレイモンド・リーの共同。製作はシリーズ全作に関わっている香港ニューウェーヴの旗手ツイ・ハーク。脚本はツイ・ハーク、ロイ・ゼトー、チャン・カーボンの共同。撮影はトム・ラウ、音楽はウィリアム・フーが担当。主題歌は台湾のポップシンガー、サラ・ツェン(陳淑樺)の『笑紅塵』(倣個真的我)。主演は前作に続いて「白髪魔女伝」のブリジット・リン。共演は「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」シリーズ、『青蛇転生』(V)のジョイ・ウォンほか。

1993年製作/香港
原題または英題:The East is Red 東方不敗 風雲再起
配給:松竹富士
劇場公開日:1995年1月14日

あらすじ

明朝政府の役人クー(ユ・ロングァン)は、ゴリダ将軍率いるスペイン軍の水先案内人として、東方不敗が姿を消した黒木崖を訪れた。東方不敗の墓を探す一行の前に現れた白髪の老人は、この地の静寂を破るなという。墓を暴く将軍の目的が始めから秘伝の記された『葵花宝典』にあったことを知ったクーは止めようとするが、多勢に無勢で窮地に追い込まれる。その途端、白髪の老人が強大な力でスペイン軍兵士たちをなぎ倒した。その死に疑問を抱いていたクーの問いに答えて、老人は仮面を脱ぎ、死んだはずの東方不敗(ブリジット・リン)が変わらぬ美しい姿を現した。密かに東方不敗を崇拝していたクーは、東方不敗の名が権力のために利用され、各地でニセ者が出現していることを告げる。東方不敗はクーに案内を命じ、二人は連れ立ってニセ者探しの旅に出る。その頃、海上では日月教の旗を掲げた船・日月号と、日本から乗り込んできた忍者の霧隠雷蔵の率いる潜水艦・霧隠号が激しい戦いを繰り広げていた。日月号の首長は東方不敗を名乗るスノー(ジョイ・ウォン)で、彼女はかつて彼の恋人だった。いまだその死を信じず、思いを断ち切れない彼女は、日月教の再建を願って東方不敗の姿を借りて戦いに明け暮れていた。一方、本物の東方不敗は、ニセ者たちの多さと歪められた日月教の集団に怒り、彼らを皆殺しにする。その行為に耐えかねたクーは東方不敗から離れようとし争って負傷するが、そんな彼を捕えたのがスノーだった。やがて、スノーと東方不敗は再会する。彼から拒絶され、致命傷を負わされながらも、なおひたむきに東方不敗を思うスノーに心動かされ、いつしか愛するようになったクーは、彼女を連れて逃げる。その間に破壊の限りを尽くす東方不敗は、霧隠雷蔵を倒して彼にすり代わり、さらにそのパワーでスペイン軍をも手中に収める。今や“東西方不敗”を名乗る彼は、スノーとクーを追う。スノーと東方不敗は宿命の対決の時を迎えるが、そのさなかにスノーが死ぬ。彼女の愛の深さに感じ入った東方不敗は彼女の亡骸を抱き、いずこともなく消え去った。

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映画レビュー

3.0 ジョイ・ウォンの美しさ

2025年11月12日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

本作はツイ・ハーク製作によるシリーズ続編ですが、前作の主人公(ジェット・リー)が登場しないこともあり、物語の中心は完全に“東方不敗という名前”へと移行しています。最も印象的なのは、登場人物のほぼ全員が東方不敗を「演じてしまう」世界が成立しているところです。

ブリジット・リン演じる東方不敗は、前作では死んだはずの存在ですが、本作では“伝説”として独り歩きし、実在よりも記号としての権威のほうが巨大化しています。ジョイ・ウォン演じるシィシィも偽の東方不敗として登場し、霧隠れ雷蔵も実は小柄な人物が“雷蔵という強者”を演じていたという構造になっています。さらに主人公までもが、東方不敗並みの能力を獲得してからは、自身の人格が“権力の役柄”に飲み込まれていく姿が描かれます。

つまり本作では、東方不敗とは一個の人物ではなく、“誰もが演じざるを得ない役柄”として増殖する記号として存在しています。権力や名声、カリスマといった象徴が実体を凌駕し、人物の主体性がその役割に吸収されていく構造が非常に興味深いです。ブリジット・リン自身も途中から“東西方不敗”と名乗り、権力の役を演じるうちに自らの境界を見失っていく姿は、権威の暴走や象徴の肥大化を暗示しているように感じました。

ジョイ・ウォンとの関係は、両性分娘としての東方不敗の美しさと、最盛期のジョイ・ウォンの魅力が並置される場面があり、視覚的な緊張感が生まれています。二人が同じフレームに立つ場面は多くありませんが、その分“視覚としての美”の印象は強く、東方不敗という神話的存在と、人間としてのジョイ・ウォンの魅力の対比が独特の味わいを生んでいます。

アクション面では、前作以上にミニチュアやワイヤーを多用し、とりわけ海戦シーンではスペイン船、日本船、明の船が交錯するなかで、列強に侵圧されていく中国というイメージが象徴的に描かれています。時代考証とは必ずしも整合しませんが、「外からの圧力」と「内部の混乱」が視覚的に結びつけられ、そこに“東方不敗という神話”が利用されていくという構図には説得力があります。

主人公があまり立っていないように見えますが、むしろ本作では“空洞の主人公”だからこそ、最も簡単に東方不敗という役割を上書きされてしまう必然性が感じられます。人物の弱さが、権威の記号に飲み込まれていく様子をよりわかりやすく示しています。

総じて、本作は物語的にはやや混沌としており、シリーズ中でも評価が分かれる作品だと思います。しかし、「権力とは実体ではなく、人が飲み込まれていく“役柄”である」というテーマは非常にユニークで、ブリジット・リンを中心とした“東方不敗の神話が暴走する世界”という視点で鑑賞すると、なかなかに見応えのある一本です。視覚的な美しさと、記号としての権力の恐ろしさが奇妙に混ざり合った、不思議な魅力を持った作品だと感じました。

鑑賞方法: Blu-ray (香港版)

評価: 60点

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