殺人地帯U・S・A

劇場公開日:

解説

アメリカ・ギャングの生態を描いた暗黒街ドラマ。サミュエル・フラーがワンマン・ショウで製作・脚色・監督を担当している。撮影を受けもったのはハル・モーア。出演するのは「決戦珊瑚礁」のクリフ・ロバートソン、ドロレス・ドーン、ビアトリス・ケイ、TVスターのロバート・エンハート、リチャード・ラストなど。

1961年製作/アメリカ
原題または英題:Under World, U.S.A
配給:コロムビア
劇場公開日:1961年3月26日

あらすじ

トム・タリーは12歳の時ギャングにやくざだった父を殺された。幼い彼は犯人のギャングの1人の顔を脳裏にきざみつけた。母のない彼を酒場の女経営者サンディ(ビアトリス・ケイ)育ててくれた。しかし彼は感化院に入り小悪党の仲間入りし、やがて1人前の暗黒街の住人になった。成人したタリー(クリフ・ロバートソン)は父の仇をとろうと復讐の念にもえていた。刑務所に入った彼はそこでファラーという男に会って、父を殺した3人のギャングたちの情報をそれとなく聞き出した。麻薬密売人のゲラ、暴力犯のガンサー、売春組織をもつスミスの3人である。ゲラが恩人サンディの酒場を買って麻薬販売しているのを知った彼はそこに行って美しい娼婦のカドルス(ドロレス・ドーン)を助けた。彼女はスミスが関係したある殺人事件の目撃者だった。タリーは彼女に地方検事ドリスコルのもとで証言をさせ、スミスを逮捕させた。一方タリーはゲラのもとで集金人として働き、顔を売った。ゲラの親分である大ボスのコナースはスミス逮捕におどろき調査をタリーに命じた。タリーは地方検事と相談してガンサーが秘密裏に政府に情報を売っているとのニセ書類を作りコナースに見せた。コナースは殺し屋ガスニガンサーを殺させた。さらにタリーは政府の公式用紙を盗みゲラをおとしこむための文書を作った。コナースはまたガスを使ってゲラを殺した。目的の3人を自ら手を下さず殺したタリーのもとに、地方検事とハルドスを殺せとの命令をもったガスがやってきた。かっとなったタリーはガスを殺し、コナースの別荘にのりこんだ。そして悪の元凶コナースを抱いてプールにとびこみ彼の息の根をとめた。しかし、用心棒の放った1弾がタリーに致命傷をあたえた。サンディとカルドスがかけつけた時、タリーの命はすでにこの世を去っていた。父の仇を討ち果たした時、彼もまた自らの生涯を永遠に閉じたのである。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5まさかの満席&立ち見!! サミュエル・フラーが描く、裏社会に生きる男の壮絶な復讐劇!

2025年4月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

こちらも、シネマヴェーラのサミュエル・フラー特集上映にて視聴。
特別料金1300円ってことは、ちゃんと買い付けて上映したってことなんだよね(笑)。

なんと!!!! 満員御礼で、立ち見!!!!
キャパの小さい映画館だし、上映回数が少ないから、
(僕の行った回は休日の昼の最終上映)
ここだと、たまに起きることではあるんだけど、
やっぱりみんなサミュエル・フラーに興味あるんだなあ。
シネマヴェーラの常として、客の大半が老人なのだが、
けっこう、大学生くらいの若い子も混じっている。

こういうギラギラとした満員の観客の熱気のなかで、
ギラギラとしたサミュエル・フラーを観る。
なんと幸せなことか。

映画も、普通に面白かった!
世間に流布しているあらすじには「アメリカ裏社会の生態を描く」とか書いてあるが、実際に観てみたら、きわめて正統な「復讐もの」のノワール。
『黒衣の花嫁』の男性版みたいな感じだ。

少年のときに、目の前で父親が4人組の集団リンチに遭って殺されるのを目撃した主人公トリー・デヴリンが、人生をかけて犯人たちに復讐を仕掛けていく。
殺された父親は裏社会に生きる犯罪者のろくでなしで、少年時代のトリーもスリとかっぱらいと金庫破りで生計を立てるあぶれもの。
彼は、半ばわざと捕まるかたちで少年院に入るのだが、出てきたらクリフ・ロバートソンに成長している。眉の傷の一致で同一人物だとわからせる処理。どっかで見た顔だと思ったら、ブライアン・デ・パルマの『愛のメモリー』のおっちゃんだったのか。

トリーは、リンチ殺人犯の顔を一人だけ見かけていて、そいつは街の裏組織の大物なのだが、終身刑をくらって刑務所に入っている。トリーは彼を追って、わざと母親代わりのおばさんの店の金庫を破って警察に捕まることで、同じ刑務所にたどり着く。医療班に紛れ込み、心臓病で最期を迎えようとしていたそのギャングから、ついに残りの3人の名前を聞き出すトリー。
3人は、まさに今、街の裏社会で、麻薬・売春・労働組合をそれぞれ牛耳っているトップ3の顔役だった(その上にビッグ・ボスが君臨する)。トリーは組織に潜り込み、復讐のために動き始める……。

一人、また一人と、知略で父の仇敵を追い詰めて、荒事を用いず仲間割れに追いやって抹殺していくスリリングな展開。その過程で拾ったアル中女とのロマンス。母替わりの引退したバーのママさんとの交流。
とにかく「お話が面白い」。
結局は、それに尽きるのではないか。

サミュエル・フラーというと、映画マニアの人たちは、すぐに切り返しがどうした、クローズアップがどうしたと、そのカメラワークや演出力について滔々と語りたがる。
この映画でも、おそらく一番有名なのは、少年の父親がリンチに遭って殺される様子を、壁にうつる影だけで描き出す冒頭のアイディア・ショットだろう。
あるいは、突発的に吹き上がる暴力描写の凄味だったり、社会的なメッセージ性の強さについても、取りざたされることが多い。
氷を舐めまわすアル中女のフェティッシュな描写とか、人形に取り囲まれて生きる「石女」のバーのママが示す「母性」とか、いろいろと見ごたえのある「映画的な仕掛け」も見受けられる。

でも僕は、何よりもフラーの映画は「中身が純粋に面白い」と思った。
お話自体に引き込まれる「語り」の魅力があって、先読みが不能で、細部に目新しい刺激的なネタがちりばめられている。娯楽映画の骨法を心得ている。
やっぱり、親の仇を順番に倒していくとか、それだけで燃えるじゃないすか。
あと、ちょっとした「小道具」の使い方で、リアリティ出すのがうまいんだよね。
監獄内病棟の医療器具とか、検事局のタイプライターとか、プールに置かれた電話とか、殺し屋が子供にあげるお菓子とか。ビリー・ワイルダーに匹敵するような「小道具」使いの名手。

もちろん基本的にはB級映画であり、すべてが完璧というわけではない。
時代的に古さを感じさせる部分もある。
とくに、何度か出てくる「裏社会」の説明的な解説台詞は、長いし、教条的だ。
リチャード・ラストの殺し屋がトリーに複数回ぶん殴られては意識を喪ったり、顔役のはめ方が2度とも一緒だったり、あれだけトリーに引っ掻き回されているのに大ボスも殺し屋もまったくトリーを疑っていなかったりと、重複する描写や、都合のいい展開も散見される。
それと、他の彼の映画を観ても思うが、女性との恋愛の描き方が結構、不器用だなあと。
終盤の展開も、個人的には納得のいくエンディングというよりは、単に終わらせにかかっているようにしか思えなかった(彼のターゲットはあくまで4人であって、ただ新妻との未来を守るだけのために大ボスを倒しに行く根拠はあまりない気がする。それにそこまで「知略」で戦ってきた男が、いきなり直接的暴力に身を任せるのもなんとなく承服しがたいものがある)。

とはいえ、総じて言えばとても面白い映画で、立ち見した甲斐があった。
ラストは、間違いなく自分のことを高く評価してくれているゴダールが撮った『勝手にしやがれ』(60)に対する、ノワール・サイドからの「返礼」だよね。

― ― ― ―

この日、もう一本、続けて観たので合わせて簡単に感想をつけておく。

『パーク・ロウ』(51、サミュエル・フラー監督)
舞台は1880年代。ジャーナリズム発祥の地パーク・ロウを舞台に、新興新聞社グローブ社と古参のスター社のつばぜり合いを描く。
『報道前線』『スキャンダル・シート』と同じ「ブンヤもの」だが、まだ馬車が走っている前世紀を舞台にした「時代劇」なので、ノリは前二者ほど躁的ではない。
やっていることも、活版を手組みしてはペラの新聞を輪転機で刷って、スタンドの手売りで売りさばくというこじんまりした商売だが、その分「手作業」感があって生々しい。

サミュエル・フラー自身が新聞記者出身だけあって、細部のリアリティやブンヤの描き方がとにかく素晴らしい。あと、基本的には架空の新聞社の話なのだが、冒頭で出てくるブルックリン橋から飛び降りて生還したというスティーヴ・ブロディとか、ライノタイプを発明したオットマー・マーゲンターラーとか、実在の人物を巧い具合に登場させてるのも粋な趣向だ(実際にスティーヴ・ブロディの件で抜きまくって社運を高めたのは、ニューヨーク・タイムズらしい)。

それと面白いのが、グローブ社とスター社の距離感。
新聞社といっても黎明期の話なので、グローブ社は建物の一階フロアに数部屋あるだけで、道向かいにスター社の数階建てのビルが建っている。で、スター社が何か要らないちょっかいをかけると、主人公のグローブ社の社長はやおら会社を飛び出して、道を突っ切ってビルを駆け上がり、そのままスター社の女社長の胸倉をひっつかんで文句を言い募るのだ。
お前ら、吉本新喜劇か(笑)。
で、中盤からは抗争が激化、女社長のコントロールが効かなくなり、グローブ社のキオスクは破壊されるわ、若い社員は馬車に轢かれて足を折るわ、活版をぶちまけられたうえに接着剤をかけられるわ、挙句に爆弾を投げ込まれて印刷機を破壊されるに至る。
おいおい、お前ら、仁義なき戦いか(笑)。
なんか、パーク・ロウってよりは「長屋もの」って感じだし、新聞社の抗争というよりは完全に「ヤクザもの」の世界。で、この殺伐とした実力行使のつぶし合いに、ふたりの社長の恋模様をうまく絡ませて、巧みにラストへともっていく手腕も見事なものだ。
老ジャーナリストの「遺書」の話が今一つよくわからない(結局彼はどうしたの?)とか、ここまで大惨事を引き起こしておいてこんな終わり方でいいのかとか、ひっかかるところもないではないが、基本的には面白く観ることができた。

なお、主人公のハケットを演じるジーン・エヴァンスって、このあいだ観た『鬼軍曹ザック』や『折れた銃剣』でマッチョな軍人役をやっていた人なんだな。観ている間はまったく気づかなかったくらいで、後から向こうのWikiを見たら、この役のために30ポンドも減量したらしい。さすがの俳優根性だ。   ★★★1/2

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じゃい

3.0復讐者に救いを

2019年12月30日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

興奮

サミュエル・フラー監督1961年の作品。
ギャングに父親を殺された主人公が自らの手で復讐する…というアクション。

主人公の復讐が凄まじい。執念と言っていい。
父親が殺された時はまだ青年で、尚且つチンピラ。
犯罪を繰り返し、刑務所へ。そこで父の仇の一人と会い、他の仲間を聞き出す。
数年後出所し、暗黒街に足を踏み入れ、仇に近付いていく…。

母親代わりの酒場の女経営者や出会った美しい娼婦の制止も聞かず。
復讐に取り憑かれた主人公の末路は…。

B級の類いだが、見応えと哀切もあるハリウッド・ノワール。

サミュエル・フラー監督作をもう一本。
作品検索に無かったので、併せてこちらに簡易レビュー。
『クリムゾン・キモノ』
1959年の作品。日本未公開。

LAのリトル・トーキョーで起きた殺人事件。白人刑事と日系人刑事が捜査する。手掛かりは、一枚の絵画“紅の着物(=クリムゾン・キモノ)”。やがて二人の刑事は、作者の白人女性に惹かれ…。

刑事サスペンスとしてもさることながら、本作は異人種間の恋愛模様にこそ注目。
ヒロインの白人女性と最後結ばれるのは白人刑事…と思いきや、日系人刑事の方。
これは当時としては画期的で、今尚語り継がれているという。(Wikipediaによると)

日系人刑事役のジェームズ繁田が渋い魅力。
グローバルな今こそ再注目もしくはリメイクするのも面白いかも。
こちらも採点は★3。

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近大