キャット・ピープル(1942)

劇場公開日:

解説

猫族に生まれた女性の苦悩と恐怖を描くホラー映画。製作はヴァル・リュウトン、監督はジャック・ターナー、脚本はダウイツト・ボディーン、撮影はニコラス・ミュスラカ、音楽はロイ・ウェッブが担当。出演はシモーヌ・シモン、ケント・スミスほか。日本版字幕は辻美奈子。モノクロ、スタンダード。

1942年製作/73分/アメリカ
原題または英題:Cat People
配給:IP
劇場公開日:1988年5月3日

ストーリー

技師のオリヴァー(ケント・スミス)は、セントラル・パークで黒豹の写生をしていたイレーナ(シモーヌ・シモン)と知りあい、やがて結婚するが、猫族の末裔というイレーナは、自分が興奮すると黒豹に変化するのではないかと苦悩し、オリヴァーにすすめられ精神分析医ジャッド(トム・コンウェイ)の診療をうけるが、恐怖は消えず、彼女の心理状態は悪化する。オリヴァーの心も次第に沈みがちになり、そんな彼を同僚のアリス(ジェーン・ランドルフ)が慰めるが、彼女とオリヴァーの談笑の現場をイレーナが目撃したことにより、以来夜道を歩いていたり、プールで泳いでいる時に、アリスは何者かの存在を感じて恐怖にかられる。しばらくしてオリヴァーがイレーナに離婚話を持ちかけた夜、残業するオリヴァーとアリスを黒豹が襲うが事なきを得た。ある日イレーナはジャッドに犯されそうになった時、黒豹に変身して彼を殺害してしまう。その事に傷ついたイレーナは、セントラル・パークの黒豹を檻から解放してやるのだった。

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映画レビュー

3.5夫に身体を許さない女は「怪物」なのか? 社会規範のなかではみ出した女性の悲哀を描く。

2021年8月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

自分は猫族の末裔であり、キスしたり嫉妬したりすると、内なる黒豹が目覚めて、相手を殺してしまう……そう信じて、怯え、やがては破滅する女の悲しい物語。 今の感覚でいうと、ホラーというよりは心理サスペンスに近いつくりだ。 画格は高く、B級感はまったくない。 「貫く剣」「穴に刺す鍵」「十字架」といった象徴的なモチーフが随所に散りばめられ、頻繁に「猫耳の影」が画面内を横切る。映像的なメタファーによって、物語の意味性を深め、恐怖をあおるアイディアの豊富さには素直に感心させられる。直接ショックシーンを見せず、観るものの想像力に働きかける、ある種「奥ゆかしい」つくりにも好感がもてる。 RKOのロゴが出ると同時に、ベートーヴェンの「運命」のモチーフが鳴り響く(いつもじゃないよね?)。 冒頭、動物園での男と女の出逢いが描かれる。黒豹のスケッチを描いては、ビリビリ破いて捨てる女。投げてもゴミ箱には入らない。それを拾って捨てる男。 女の内に秘めた激しい獣性と、それに対する自身の強固な反発、無意識的な規範性の薄さ、対する男の社会的成熟がワンシーンで見事に描き出される。 物語は、誰もが感じるとおり、性的な隠喩をふくんで進行する。 ヒロインは、性的興奮や同性への嫉妬を「身を滅ぼすタブー」として忌避している。 だから、結婚しても唇を許さないし、同衾しない。 欲求不満の旦那は、同僚との不倫に速攻でのめりこんで、離婚を言い渡してくる。 すぐさま精神科医が登場して入院加療を進言するあたり、同時期のノワールを読んだり観たりしても頻出する展開でもあり、当時のアメリカのメンタルヘルスブームが垣間見える。 この物語で重要なのは、実は「ヒロインが性的に興奮すると黒豹に変じるかどうか」では必ずしもない。「そう考えて社会規範から外れた行動をとってしまうヒロインを、回りがどう扱うか」こそが本作の真に重要なテーマなのだ。 ちょうど同じ映画館で最近観たカール・T・ドライヤーの『怒りの日』では、多情であるがゆえに「魔女」の烙印を押されて処刑される女が出てきた。今回はその逆で、「性的に潔癖であろうとして結婚相手にも身体を許さない女」が、最終的には「怪物」として処断される。 冒頭で、女に近づいてくる男はやけに自信満々だ。 スケッチをびり破りにしたり、道に捨てたりする、ちょっと変わった「メンヘラ女」を、俺くらい「正常でまともで健全な」人間なら、包容し、同じ社会規範のラインまで引き上げてやれるという、傲慢さと驕りが仄見える。どこか、Keyの美少女ゲームでキャラを攻略する主人公のような、世話焼き男が「手のかかる女に傾斜していく」心理がうまく描かれている。 ふたりはとんとん拍子で結婚まで進むが、夫となった男は初恋時代の彼では最早なくなってしまう。 結婚してもなおヒロインが身体を許さないとなると、男にとっては「そこまでおかしな女だとは思わなかった」「さすがに異常すぎて面倒見切れない」という話になってくるからだ。そこまで、いかにも善良そうなナイスガイに描かれていたぶん、不協和音が出てからの変わり身の早さ、浮気相手への乗り換えの早さには正直ビビらされる。 新婚相手に、離婚か入院かを迫るとか、人としてあんまりだろう(笑)。 自分の口で「挫折がなく幸せな人生を送ってきた」と言い切れる人間というのは、結局のところ逆境には打たれ弱いし、さくっと逃げ出す選択をとる人種なのだ。 男に同調し、妻帯者だとわかっている相手に愛の告白をかまして色目を使ってくる同僚も、男と似た者同士である(後半、被害者面してるが、こんな女殺られちゃえばいいのにと思いました)。 ヒロインに対して下心駄々洩れ、ヤル気まんまんの精神科医も同罪(仕込み杖ってw)。 結局、「善きアメリカ人の規範」から外れた女は、「怪物」として社会から切り離されてゆく。追い詰められた女は、自らの抑え込んできた獣性を、やがて別の恐ろしい形で暴発させることになる……。 彼女は、なんでキスすらできないとわかっていて、序盤で男が近づくのを許すばかりか、家に招き入れ、あげく恋仲になり、結婚までしてしまったのか。この辺に明確な説明がないのは、本作の若干弱い部分かとは思うが、それだけ「なにもわからない少女のまま大きくなった」「男に免疫のないおぼこい女性」だったということか。 シモーヌ・シモンははまり役。猫顔に黒衣装でいかにも黒豹らしいし、少女性・処女性と内なる獣性を併せ持って感じさせる彼女の魅力は、この受難の物語を真実味のあるものにしていた。 正直、黒豹のインサート映像にはあんまり迫力がないとか、そもそも変身してたとして服はどうしてんのとか、動物園の豹を彼女は一体どうしたかったのかとか、いろいろひっかかる部分もないではないが、いわゆる「シェイプシフターもの」の古典としての価値は高い。

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じゃい

3.5足音の恐怖、暗闇の恐怖

2014年5月10日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

迫る足音だけで緊張感がもたらされるところ、そして部屋で明かりを消すという行為だけで、ある種の予感めいたものを生み出しているところ、いずれもとても驚きながら観ていました。 こういう丁寧な作りが、映画を良いものにするんだなと、改めて実感しました。

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チャーリー

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