われらの時代(1959)

劇場公開日:

解説

大江健三郎の書き下し長篇から、「銀座のお姐ちゃん」の白坂依志夫が脚本を書き、「地獄の曲り角」の蔵原唯繕が監督した。撮影は「密会」の山崎善弘。

1959年製作/97分/日本
原題または英題:The Age of Our Own
配給:日活
劇場公開日:1959年11月25日

ストーリー

はたして、青年たちに希望はあるか。大学生・靖男は洋パンの頼子と暮している。弟の滋から、クラブで歌う明子という女のフランス語の個人教授を頼まれた。弟はそのクラブで“アンラッキー・ヤング・メン”として出演していた。日本で最年少のジャズパンド。仲間は真二と朝鮮人の高だ。彼らの共通の夢はトラックを買い、日本中を演奏しながら長い長い英雄的な旅を続けることだった。--靖男にも希望があった。パリ留学の懸賞論文に入賞したら<この陰うつな日本から、あの頼子のセクスから解放される>。翌日会った歌手志望の明子の話--滋が高と同性愛らしいという--が靖男を驚かした。靖男はホテルで明子と関係を持った……。滋たちは、マネージャーの大黒に復讐したくてたまらなかった。いつも毒づくのだ。三人は討論の上、侮辱の大元締のはずの総理大臣を襲撃することにした。靖男に論文入賞の通知がきた。明子は姙娠していた。彼は頼子と別れる決心をした。自立するため、バイトの口を探した。が、明子はしおれていた。結核と医師に診断されたのだ。子を生めば自殺も同然だと。泊ったホテルで、彼女はガスで無理心中を図った。靖男は怒り、そのまま去った。翌日の新聞は、銀座での少年二人の爆死事件を告げていた。目撃者の証言で、第三の少年が犯人と目された。滋である。総理大臣の襲撃に失敗して、高と真二がいがみあい、爆死してしまったのだ。--靖男が友人の学生コミュニスト八木沢からアラブ独立運動家に紹介されていた時、滋が飛びこんでき、事件を説明した。高が男色関係にある外国人ジミイを殺して奪った百万円がクラブの控え室にある。それを処置しなければ滋が金ほしさに二人を殺したと見られるだろう。靖男はアラブ人のアパートに弟を残し、金を取りにクラブへ向った。その間に、滋は監禁されたと思いこみ、逆上し、窓から墜落した。<兄貴の裏切り野郎!>クラブで、靖男はアラブ人と共に捕えられたが、すぐ釈放された。大使館の書記官は彼にアラブ人と交渉を持たぬことを要請した答えにはパリ行きがかかっていた。<ノン!>靖男は答えた、--<アラブの独立運動を私は支持する>。出口に頼子が待っていた。彼を迎え入れるといったが、靖男は振り向かなかった。八木沢も学生運動に入ることをすすめたが、靖男はもう後悔していた。彼は悄然と鉄橋の下をのぞきこんだ。自殺にひかれたが、出来なかった。彼は背を丸めて歩きだした。--これがだらしなく生きて行く、希望のないわれらの時代なのだ。

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映画レビュー

4.0キャスティングが光る映画化

2024年8月8日
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鑑賞方法:映画館

 大江健三郎の原作『われらの時代』を読んでから鑑賞しました。原作を読んだときに感じた終盤のしみじみとした感慨は映画でも描かれていました。

 俳優がよかったです。
 性的にも思想的にも日本に絡め取られながら、そこからの「脱出」を願う主人公の兄と、ジャズのピアノを演奏しながら無軌道な行動に走る弟。
 弟の活発で野生感のある姿はイメージ通りでした。他方、兄は人を見下したり、我関せずを決め込むときの表情がよく映えます。原作では沈鬱な印象をおぼえたのですが、映画では人間関係のなかでの彼の態度が明白になっています。

 安保反対の署名を呼びかける学生や学生運動のリーダーも登場して60年代を予感させますが、主人公の青年たちが具体的な問題として直面するのはいずれも第二次大戦後の国際情勢の光景です。日本とアメリカ。アルジェリアとフランス。韓国と日本。
 同じように、映像の面でも、ときおりスタイリッシュなカットが挟み込まれてハッとさせられることがありますが、基本的にはセットでのカメラワークには古めかしさを感じます。二つの激動の時代のあいだに挟まれた50年代らしい作品です。

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言伝